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第三章 震⑫
「皆さん、大変お世話になりました」
輝飛竜フェイの前にマティアスとウィルバートは立ち、見送る村人たちに丁寧に礼を述べた。
マティアスの手には魔術用の杖が握られていた。以前マティアスとウィルバートに村娘との結婚を持ちかけてきた老婆の母親の持ち物らしい。古いがとても良い代物だと感じた。
ウィルバートもまた鉄の大剣を背負っていた。
ウィルバートは「こんな大剣、俺に扱えるか?」と不安そうだったが、試しに振ってみた所村人たちが驚くほどアッサリと振り回し実に様になっていた。
杖も剣もダン達若者が短時間で見つけて来てくれたものだ。
さらに彼らはフェイにも沢山のりんごを与えてくれ、彼らに馴れたフェイは簡易の手綱を着ける事を許した。
アルヴァンデールの王だと知りながらここまて助けてくれた村人たちにマティアスは感謝の気持ちでいっぱいだ。
「気を付けてな」
ハラルドが力強く言う。
「駄目だと思ったら逃げるのよ?」
ヘルガはやっぱり心配そうだった。
「必ずまた来いよ!」
ダンもいつになく真剣だった。
マティアスは皆に視線を送り、力強く頷いた。
「頑張ってきます!」
そしてフェイの背中によじ登る。ウィルバートもマティアスの後に着いた。
飛竜に乗る時、通常ならば専用の鞍が着けられる。しかし現状は裸馬ならぬ裸飛竜だ。だからダン達が着けてくれた手綱は大いに助かった。同時に手綱も無しで暴れるフェイに乗ってきたウィルバートがあり得ないとも感じる。
「よし、フェイ、行こう!」
フェイが「キェッ」と小さく鳴き、翼を広げる。
「フェイ、ゆっくりなっ!」
マティアスの背後からウィルバートが慌てて言うが一歩遅く、フェイは雪面を蹴ると同時に急加速し飛び立ち一気に大空へと舞い上がった。
「ふぐっ……!」
村人たちの大歓声を背に、マティアスとウィルバートはフェイの背中に必死にしがみついた。
「フェーイ! ゆっくり飛べー!」
あっという間に空へと舞い上がったフェイにマティアスは叫んだ。フェイは『うるさいなぁ』とでも言うようにチラリと後に視線を向け、少しだけ速度を落とした。
「わぁ! 綺麗だ……!」
「おお、凄いな!」
上空から見たバルテルニア王国ルンデ村は深い森と真っ白な雪に埋もれている。西の山に帰ろうとしていた初春の白い太陽に照らされた美しい大地はまだ冬の中だ。
マティアスはこの地の春や夏の風景も見たいと思った。
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