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第三章 震⑬

「ねえ! ウィル!」  アルヴァンデール王国のバルヴィア山に向ってフェイはどんどん進み飛んでいく。マティアスは意を決してウィルバートに声をかけた。 「城に戻ったら、私の伴侶になってくれないか!」 「は?! 何だって?」  風で良く聞こえなかったのかウィルバートが聞き返してくる。 「だからね、私と結婚して欲しいんだ! もう騎士じゃ嫌だ。それ以上がいい!」  マティアスの言葉にウィルバートはポカンと固まっている。 「国王が男を娶ったら民がどう思うか分からないけど、この『黒霧の厄災』を鎮めたら少しくらいの我儘は許されると思うんだ!」  マティアスは今朝ふんわりと思っていた事を一気に言葉にした。もう民にも嘘をつきたくない。ウィルバートをこれからの自身の伴侶として公表したい。そう思った。  固まっていたウィルバートが「フハッ」と息を漏らし笑った。 「そう来たかー!」 「駄目か?!」  マティアスは不安に駆られながら聞き返す。今この生きるか死ぬかの状況でウィルバートにそれを迫るのは卑怯な気もしたが、何か大きなご褒美があったならこの苦難を乗り切れる気がした。 「ああ、いいよ! どんな形でも側にいるって言ったからな!」 「本当か!?」  マティアスは振り返った。  夕陽に照らされウィルバートが微笑んでいる。 (ああ、この男を好きになって良かった)  マティアスはそう心の底からそう感じた。 「ウィル、嬉しいよ。その約束があれば頑張れそうだ……」  マティアスはそう呟き微笑むとウィルバートに手をかざした。不思議そうに見つめてくるウィルバートに光の妖精たちが集まってくる。 「お願い。彼を安全な所に……」  マティアスがそう願うと妖精達がバサバサとウィルバートを包んていく。 「マ、マティアス?! 何だ?!」 「ごめん、ウィル! やっぱり連れて行けない!」 「はあっ?! ふ、ふざけんなっ!」  光の妖精たちは球体になりウィルバートを包むとその身体をフェイから離した。 「お前はっ! いつもいつも勝手にっ!」  球体の中からウィルバートが必死に叫んでいる。  離れて地上へと降りていくその光にマティアスは叫び返した。 「必ず帰るから! 絶対ウィルの元に帰るから!」  ウィルバートが怒りながら何か叫んでいるように見えたがもう声は聞こえなかった。  光の球体が森へと降りていく。そこはもうアルヴァンデールだ。ウィルバートの故郷ボルデ村の近くの森。まだ黒霧は届いていないようだ。 「昔も今もウィルにはいつも怒られてたな……。帰ったらものすごく怒られるんだろうな」  マティアスはなんだがそれが楽しみになった。  フェイに一人乗っているマティアスの目の前には濛々(もうもう)と黒い霧を吐くバルヴィア山が見えていた。フェイはゆっくりバルヴィア山の上空を旋回しマティアスは山頂を眺め状況を観察した。  黒い霧が立ち込める中に、沢山の黒い魔物らしきモノが飛び回っている。そして火口の中心には赤々と燃え光る巨大な何かが見えた。 「フェイ、来てくれてありがとう。助かったよ」  マティアスはフェイの首を撫でた。フェイは『グルルッ』と喉を鳴らした。 「後は大丈夫だ。安全な所で待機してて」  マティアスはそう言うとダンからは渡された杖を持ち、フェイから飛び降りた。  黒い霧を裂き山頂へ着地する寸前、杖から波動を出し衝撃を和らげる。わずかな砂埃を起こす程度でバルヴィア山へ降り立ったマティアスは杖を見て呟いた。 「うん、いい杖だ」  そして真っ赤に燃え盛る巨大な火柱に向って叫んだ。 「ヴィー! さぁ、一緒に頑張ろう!」

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