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第三章 黒霧の厄災②

 人々は老若男女様々で皆荷物を背負い、荷車を押している者もいる。どうやらこの先の集落からの避難民らしい。 「お気遣い、ありがとうございます」  カイは男に礼を言いつつも通路の端を人々の流れに逆らって駆け登った。男が後から「お、おい!」と呼び止めてくる。  人々の好奇な目を無視し進むと数人の兵士に出くわした。兵士達は皆、口と鼻を革で作られたマスクで覆っている。 「おい、お前! どこへ行く気だ! もうここにも毒霧が降りてくるぞ!」 「もうあれを鎮められる王族は居ないんだ! どこまで広がるか分からん! 出来るだけ山から離れろ!」  兵士二人が止めてきたがカイは無視して走り抜けようとした。 「おいおい! 聞いてんのか!」 「は、離してくれ! 俺は行かなくちゃ行けないんだっ!」 「民は皆避難させたから、誰か探してんのならこの先には居ないぞ!」 「お、俺はっ!」  その時だった。  陽が沈み濃紺になった夜空を赤く焼いていたバルヴィア山から金色の光が放たれた。 「なっ! なんだっ?!」  兵士達が驚きどよめく。その金色の光は一直線に空へ伸びる柱となった。 「た、『魂の解放』だ……」  兵士の一人が呟く。 「二十年前の時は二本の光の柱が立ったんだ! セラフィーナ様とクラウス様の!」 「じゃあ、あれは誰なんだっ?!」  兵士達が騒ぐ中、カイはその光の柱から目を離せずにいた。次の瞬間、その光の柱の根元から雷のような光が放たれ、光から数秒ずれて轟音が山々にこだましてくる。何かが爆発するような地面を揺らす程の音だ。 「マティアス!」  カイはバルヴィア山に向って叫んだ。  『黒霧の厄災』を鎮めるべくマティアスが王家に伝わる秘術『魂の解放』を使い、戦闘を開始したのだとわかった。 「ま、マティアスって! 陛下がお戻りだと言うのか!」  兵士の一人がカイの肩を掴みカイの顔を凝視してきた。そしてハッと目を見開いた。 「あ、貴方は……ブラックストン隊長?!」 「お前、何言って……。隊長はもう何年も前に……いや、確かによく似てるが!」  兵士二人がカイの顔を松明で照らし、信じられないと言った様子で見てくる。動揺する彼らにカイは落ち着いた声で言った。 「俺には記憶が無いが、たぶんあんた達の言っていることは合ってる。それから、今あそこで一人で戦ってるのはマティアスだ。それは事実だ。だから俺はあそこに行く。そこを通してくれ!」

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