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第三章 黒霧の厄災③
「隊長……生きてたんだ……!」
「お、俺たち、バルヴィア山麓調査隊のメンバーで、貴方はその時の隊長で……!」
呆然とする兵士二人。しかしカイは今それどころではなかった。
「思い出話は生きて戻れたら聞くよ。俺は行く」
冷たいとは思いながらもそう言い捨てて走り出そうとした時、
「た、隊長! これ使ってください! 気休め程度にしかならないですが」
兵士の一人がマスクを外し渡してきた。
「いいのか?」
「自分達はこれで退避させてもらいます。力になれず申し訳ありません!」
「いや、助かる。ありがとう」
カイはマスクを受け取ると再び走り出した。その背後から兵士が叫んできた。
「陛下を、マティアス様を、どうか宜しくお願いしますっ!」
カイは手を振りながら走る速度を上げた。
兵士の言葉にはマティアスへの尊敬と信頼が感じられた。仕立て屋としてアルヴァンデールに滞在していた時から感じていた。マティアスは確かに国民から愛されている。マティアスを奴隷のように、道具のように考えているのは一部の貴族で、平民のほとんどがマティアスに抱いているのは尊敬と親しみの念だ。そしてマティアスもまた民を想っている。
マティアスは『私はアルヴァンデール史上最も愚かな王だ』などと言っていたがそんなことは無いとカイは強く思った。
カイは兵士から受け取ったマスクを着け山道を登る。その間も山では赤く燃える光と、金色に瞬く光、そして山々に響く轟音が鳴り続いていた。
カイはマスクで呼吸がしにくくなり登るペースが落ちた気がしてマスクを途中で外した。すると途端に喉の奥と肺がギリギリと締め付けられるような感覚に陥り慌ててマスクを付け直した。夜になり黒い霧が目視出来ないがもう立ち込めた場所まで来ているらしい。
近辺の木々が背の低い這松などに変わり、かなりの高度まで来たことが分かった。視界を遮る木が無くなりバルヴィア山がよく見える。
バルヴィア山は禍々しく燃える赤い光で紺碧の夜空を焼いていた。そこから濛々と辺りに拡散されていく毒霧。マクスを通り抜けた毒霧が肺に喰らいつきカイはゲホゲホと咳き込んだ。
その時、カッと強い光が辺りを包み、ほぼ同時にドォォォンと鼓膜を突き破る程の爆音が響いた。
「くっ……!」
カイは咄嗟に斜面に伏せた。その背中を強風と共に砂や小石が流れていく。
爆風らしきものが止みカイが顔を上げると、夜空に伸びていた金色の光の柱が根元から消えていくのが目に入った。
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