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第三章 黒霧の厄災⑤
ふと顔を上げると火口付近に赤々の燃える物体がこちらを見ているような気がした。それはちょうど人ぐらいの大きさに見えた。
カイはその物体に泣きながら叫び怒鳴った。
「ヴィー! お、お前っ、しっかりしろよっ!」
しかしその赤く燃える物体はこちらを見ているようにも感じたが、何の反応もせずただゆらゆらと燃えているだけにも見えた。
「マティアスが! マティアスがっ……!」
マスク無しで叫んでいると、これまでの比ではない苦しさが襲ってきた。
「ガッ……ハッ……!」
強く咳き込むと大量の血が口からバタバタッと流れ出た。さらにゲホゲホと咳込み、苦しさから逃れようと空気を吸い込む。しかし肺に入るのは黒霧で汚染された気体。カイはマティアスの身体の横でのたうち回った。
「ヴッ……ガハッ……うぐっ……」
カイは確信した。このまま死ぬのだと。
肺を無数のかぎ針で掻きむしられているような激痛が延々と続く。身体が空気を求めて必死に呼吸をするも肺の激痛は増すばかりだ。
あまりの苦しさにカイは背負っている剣で自身の胸を突こうと考えた。しかしもはや身体を動かすことも出来ず、ただひたすらこの苦痛が早く終わることを祈るしか無かった。
しばらくしてスウッと痛みが和らぐ瞬間が訪れた。やっと終われる。安らぐ所へ、マティアスと共に行ける。そう思った。しかし気付くと再び元の激痛が襲ってきた。そしてまたその場でのたうち回り苦しみ藻掻いた。
時間の感覚も分からなくなっても、それは何度も繰り返された。
冷たい夜空の下。赤い炎の光だけに照らされ、カイは一人苦しみ続けていた。
慣れることがない激しい苦しみの中でカイは絶望した。それは自身が不死身であることだ。カイはこの苦痛が永遠に続く可能性に気付き恐怖した。しかしどうすることも出来ず、ただただ足掻き藻掻くしかなかった。
瀕死と回復を何度繰り返したかももう分からなくなってきた時だった。
視界が金色の眩い光でいっぱいになった。
それと同時に身体がふわりと軽くなるような感覚がした。
(ああ、やっと終われるのか……?)
ぼやける視界にマティアスの手が見えた。カイは僅かに残った力を絞り出しその冷たくなった手を握った。
遠のく意識の中で声が聴こえた。
「ねえ……ん! 見て、バ……ィアが……なに小さく……る!」
「クラ……ス! だれ……倒れ……!」
カイはその声を聞きつつ、別の何処かに自分が流されるていくような感覚を感じた。
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