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第三章 英雄①

 漆黒だった夜空がかすかに紺色へと変わり始めていた。 「やったわ! クラウス! 目を開けた」  ぼんやりとした視界と頭で状況を掴みきれないマティアスの耳に女の声が入ってきた。どこか聞いたことがあるような、昔聞いていたような気がする声だ。  鎧をまとい金色の髪を結い上げている女がマティアスを覗き込んでいた。その女はよく知る人物に似ていて、マティアスは思わず呟いた。 「……かあ、さま……」 「やっぱり! やっぱり、あなたマティアスなのねっ!」  女は寝転んだままのマティアスに抱きついてきた。 「ああっ、私の可愛いマティアスっ! 蘇生出来て良かったっ!」  徐々に頭が覚醒してきてマティアスは上体を起こし、その若い女を見た。そこにいたのは五歳頃に見たままの母親の姿だ。 「母さま……? 本当に母さまなのですかっ?」  さらに近くには同じく鎧を纏った男がもう一人と、輝飛竜が三頭いた。その内一頭はフェイだ。そしてマティアスはその男の風貌に気付いた。 「お、おじい様っ?! わ、若いっ!」  髪色はイーヴァリと異なり金色だが、そこにはどう見ても若返ったイーヴァリが立っていた。マティアスの反応に母セラフィーナは笑い、男はムッと眉を寄せる。そしてセラフィーナは真剣な目を向けてきた。 「そっちは私の弟のクラウス。マティアス、私たちは時を渡る術を使ったの。バルヴィアを完全に倒す為に」  そしてクラウスも口を開く。 「私達二人ではバルヴィアの封印が不完全になってしまったんだ。それで『魂の解放』が有効なうちに時を渡った。だが幸いにもこの時限のバルヴィアはもうほとんど無力化している。マティアス、お前とその者の二人で倒したのか」  マティアスはクラウスが指し示した方を見た。見た瞬間、マティアスは反射的に悲鳴をあげた。 「あああぁぁぁっっ!!」  マティアスは砂を掻くようにそれに駆け寄った。 「ウィルっ! ああぁぁ! ウィルっ!」  抱き寄せたウィルバートは既にこと切れていた。力が完全に抜けた身体。大量の血を吐いたようで、顔や胸が鮮血と茶色に乾いた血で汚れていた。 「ウィル……っ、嫌だぁぁっ……ウィルっ!!」  我を忘れてその身体を抱きしめてマティアスは泣き喚いた。 「マティアス、落ち着いて! その者も蘇生できるはずよ。魂と身体が完全に離れて無ければ」  マティアスは泣いた顔を上げセラフィーナを見た。 「ほ、本当ですか……?」 「『魂の解放』が有効な今なら、私達にはそれができる。時も渡れるし、死者の蘇生も可能」  マティアスはそう言われ、ベレフォードの授業で習ったことを思い出した。  さらに先ほど夢の中でウィルとカイの両方に会っていたことも蘇ってきた。カノラの庭で三人で話したのだ。 「母さまっ、私にもまだ『魂の解放』の効果は残っているのでしょうか?!」  セラフィーナが頷く。 「三人でやってみましょう」

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