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第三章 我が名は②
そう宣言すると胸の上に置かれたマティアスの毛束が赤紫の炎に包まれた燃え上がった。それに連動するかのように赤子よりも小さなその身体も炎に包まれ、宙に浮かび上がる。
「うっぐっ……っ!」
その瞬間、覚えのある痛みが口の中に起こり、マティアスは左の頬を押さえて蹲った。
「マティアス!」
「マティアス?!」
ウィルバートとセラフィーナが心配して背中を丸めて耐えるマティアスに駆け寄る。
「どうした?! マティアス!」
ウィルバートに背中を擦られながら痛みが去るまで待ち、マティアスはゆっくりと顔を上げた。
「だ、大丈夫だ……」
すると同時に赤子を包んでい赤紫の炎も消えていった。マティアスは宙に浮くそれを見て微笑んだ。
「その姿、懐かしいな」
そこにいたのは八年前に出会った五、六歳の子供の姿をした赤毛の魔物。
「ヴィー。好きな所で好きに生きろ。但し、人が嫌がることや悲しむことはするなよ」
「ふんっ、なら契約にそう織り込めば良かったものを」
「こういうのは契約じゃない。約束だよ」
マティアスはヴィーにそう微笑むとヴィーは呆れたように溜め息を着いた。
「守るかはわからんが……覚えておく」
その答えにマティアスは満足し、草の上に落ちていた青いリボンを拾い上げた。ヘルガがマティアスの髪に結んでくれたものだ。マティアスはそれをヴィーの首にかけ、軽く結んでやった。
「時々会いに来いよ」
マティアスの問いかけにヴィーは赤い大きな目を向け呟いた。
「守るかわからんがな」
ヴィーはそう言い残すと何の未練も無いように、いつも通り紙が燃えるように赤紫の炎をたてて消えた。
「さて、帰ろうか」
マティアスはバラバラに短くなった髪を掻き上げながらウィルバートに笑顔を向けた。ウィルバートはそんなマティアスを抱き寄せ、きつく抱きしめた。
「……よく頑張ったな」
ウィルバートの大きな手が短くなったマティアスの髪を撫でる。
「ん……ウィルがいてくれて良かった……」
マティアスもまたウィルバートの広い背中に手を回し抱き返した。
「ううっ……俺の金髪が……」
「あはは、ごめんて」
ウィルバートが首筋に顔を埋め髪を撫でながら嘆いた。肩につかない程度に短くなった髪。剣で無理やり切断したので整ってはおらずバラバラだ。
バルテルニアで過ごす日々で、ウィルバートが頑なにマティアスの髪を切ることに反対していたのは単に気に入っていたからだとわかりマティアスは笑った。
「また伸ばすよ。ウィルの為に……」
マティアスはウィルバートの背中を撫でながら囁いた。
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