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第三章 我が名は③

「ちょっと! もうちゃんと説明してもらうわよ! 貴方、何者なの?!」  『黒霧の厄災』の鎮圧と、根本原因だった火焔石からの妖精の解放。生か死かの狭間で見事に全てを解決でき、喜びに浸るマティアスとウィルバートに向けてセラフィーナが明らかな怒号が飛ばしてきた。 「私も気になっている。そなたはかなりの術者と見受けられる。しかし魔力は感じない。魔力を感じさせないような術も扱っているのか?」  クラウスがウィルバートに向って冷静に尋ねてきた。ウィルバートは戸惑いつつ頭を掻く。 「いえ……私はただの人間で……」 「は?」 「ウィルは魔術、使えませんよ」 「そんなわけあるかっ!」  ウィルバートとマティアスの答えに、それまで冷静だったクラウスはセラフィーナを遥かに超える怒鳴り声を上げた。 「お前の分身のようなものに我々は呼ばれたのだっ! 時を渡る際、三十年先を目指していた。だが途中でお前がここだと呼んだのであろう! ただの人が時空の中に意識を飛ばせるわけがない!」 「それは、私の記憶の断片でして……」  ウィルバートがしどろもどろに答える。 「そもそも、バルヴィアを倒したのもお前であろう! 奴の魔力を物凄い勢いで吸収していた! そんな事が出来るものが普通の人間なわけあるか!」 「いや、それも私に掛けられた魔術で……」 「クラウス殿下、話せば長いのです……」  ウィルバートを援護するようにマティアスもクラウスをなだめるが、さて、どこから説明したらよいやら……と悩む。 「そんなことはどうでもいいの!」  騒ぐ男たちにセラフィーナが一喝した。 「ど、どうでも良くないです! 姉さまっ!」 「いえ、私にはどーーーでもいいのですっ! 貴方、私の可愛いマティアスとどういう関係なの?!」  セラフィーナはウィルバートに向って問いただした。 「我が物顔でマティアスにベタベタ触って! あまつさえ、キ、キスまでするなんてっ!」  顔を真っ赤にして怒るセラフィーナをマティアスを慌てて止めた。 「か、母さま……私は今、二十六歳なのです。貴女よりもう歳上なのです。ですから……」 「二十六だと?! ではここは……二十年後か?!」 「そうです。先の『黒霧の厄災』から二十年、あと二カ月で二十一年経ちます」  突然割って入ってきたクラウスにマティアスが説明した。

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