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第三章 帰還①
「確かこの辺りだったはず」
マティアスはウィルバートと共にフェイに乗り、空を舞うその背中から下界を見下ろし目的の家を探した。
『黒霧の厄災』が起こったアルヴァンデール。
多くの兵士が出動しているが、大きな暴動等は起きていないように見える。
厄災を鎮められる王族が不在の状態。国が終わる可能性が高かった中で、兵士たちは民の避難や治安維持に奔走し、事態が悪化しないよう努めていてくれたようでマティアスは実に誇らしく感じた。
王都ナティーノ郊外の農村部ではバルヴィア山が消失したことに驚いた人々があちらこちらで山を眺めていた。そしてその上空を飛ぶ三頭の輝飛竜に気付いた人々が指を指し空を見上げている。
「あった! あの屋敷だ」
マティアスが大きな屋敷を指し示した。ウィルバートが頷き、フェイが降下していく。その後ろをセラフィーナとクラウスの乗る輝飛竜二頭も着いてきた。
屋敷の敷地手前の農道に輝飛竜達を誘導し、四人は輝飛竜から降りた。三頭の輝飛竜はおとなしくお座りをしてくれている。
「ここは、農園主のオーケルマン氏の家だよな」
クラウスがマティアスに確認してきた。マティアスは屋敷に向って歩きながら答えた。
「ええ、よくご存じで。ここの御息女が私に仕えてくれてまして。私を貶めた貴族を知る証人でもあるのです。彼女を連れて城に戻り何があったか証言してもらわないと」
「貶めた? 何があったの?」
マティアスの言葉にセラフィーナが心配そうに問い詰めてくる。
「半年前、王である私を輝飛竜に襲わせて玉座から下ろそうとしたのです。その策は彼らにとっては大成功で、私はウィルと共に輝飛竜に攫われてバルテルニアまで飛ばされていました」
「はぁっ?!」
「バ、バルテルニアって!」
セラフィーナとクラウスが驚き声を上げる。
「なので私も城に帰るのは半年ぶりなのです。たぶん死んだと思われています」
「では、今は誰が国王なのだ?! 父上は?!」
クラウスが当然の疑問を口にしマティアスは少し一呼吸してから告げた。
「現在はサムエル様が国王を務められているはずです。……おじい様は、三年前に崩御されました」
クラウスとセラフィーナが共に息を呑むのを感じた。
「私が心身共に苦労をかけすぎて……寿命を縮めてしまいました。……申し訳ございません」
きっと二人は父親に会いたかったに違いない。マティアス自身も『黒霧の厄災』を鎮めたことを直接イーヴァリに報告したかった。
マティアスは二人に頭を下げた。そんなマティアスをセラフィーナがそっと抱きしめた。
「二十年間、大変だったのね……」
「母さま……」
マティアスもセラフィーナを抱きしめ返した。
その時、ウィルバートが突然、背中に背負っていた剣を抜いた。
「マティアスっ……様子がおかしい!」
屋敷に近づくと悲鳴に近い叫び声が聞こえた。
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