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第三章 帰還②
「お父様! お父様っ!」
マティアス達が屋敷に駆け寄ると、玄関広間に屋敷の主であるオーケルマン氏らしき男が倒れ、マリアンナが悲痛な叫びをあげていた。
短い赤毛にブラウスと長いスカート。父であるオーケルマンを抱きしめ、必死に呼びかけるその身は血で真っ赤に染まっていた。
「マ……アンナ……逃……なさいっ!」
オーケルマンが必死な声を振り絞るがその口からは声と共に、血も溢れ出す。
その二人の回りは口元を布で隠した不審な男が三人いた。そのうちの一人は血で濡れた刃渡りの長いナイフを持っている。
「お前たち、武器を捨てろ!」
ウィルバートが剣を構え声を張り上げた。三人の暴漢達は一瞬驚き固まるが、すぐにその場から立ち去ろうと辺りを見回した。しかし玄関先はマティアスたちに塞がれ、一人が屋敷の中へ逃げようと奥の扉へ。もう二人は窓に駆け寄った。間髪入れずマティアスが杖を振るうと全ての扉や窓が金色に光った。
「くっ! 開かないっ!」
暴漢がノブをガチャガチャと回すが扉は硬く閉ざされている。
「クソーッ!」
行き場を失った暴漢三人はマティアス達にむかってナイフを振りかざしてきた。
「はっ、そんなものでこの私に敵うとでも?」
クラウスがそう言い放ち長剣で暴漢のナイフをあっさり払い除け、ウィルバートもまた窓に向った暴漢二人を剣の柄で殴りあっという間に制圧した。
「ま、マティアス陛下!」
負傷した父親抱いたままマリアンナが叫んだ。
「ただいま、マリアンナ」
マティアスが微笑みそう言うと、マリアンナはぼたぼたと涙をこぼし震えながら声を振り絞った。
「よ、よく……ご無事で……」
「ま、マティアス陛下っ?!」
マリアンナのその声に暴漢達が驚きの声を上げた。
「母さま、オーケルマン氏の治癒をお願いできますか」
マティアスがセラフィーナにそう頼むとセラフィーナは「わかったわ」と言いオーケルマンとマリアンナに駆け寄った。
「ま……さか……セ…フィ…ナ様……!」
「お久しぶりですわね。お父様にそっくりになられて」
二十年前の姿のまま現れた伝説の英雄に驚くオーケルマン。セラフィーナは微笑みながら治癒魔術を施し始めた。
「ああ……お父様っ!」
金色に輝く光に照らされマリアンナが歓喜の声を上げた。オーケルマンの腹部から流れていた血が止まり顔色もみるみる良くなっていく。
「さあ、もう大丈夫よ」
「ありがとうございますっ……本当にありがとうございますっ!」
涙を溢れさせながら父娘 はセラフィーナに感謝を述べた。
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