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第三章 ウィルとカイ②

「この部屋に浴室は無かったと思ったが、作ったのか?」  ウィルバートが汚れてヨレヨレになった外套を脱ぎながら尋ねてきた。 「無いよ。だから魔術で済ませよう」  王族専用の広い浴場はセラフィーナかクラウスが使うだろう。他にも浴室はあるが早く済ませてゆっくりしたかった。 「魔術って、水の玉の中でぐるぐる回されるヤツか?」 「あぁ、昔ベレフォードにやられたの覚えてる? あんなに手荒にはしないよ」  やや警戒しているウィルバートにマティアスは微笑みながら杖を向けた。空中に水の粒が浮かびそれが集まってくる。それ粒はやがて大きな水の玉となった。 「はい、大きく息を吸ってー」  まだ全部脱ぎきってないウィルバートが慌てて肺を膨らませ、息を止めた。マティアスはウィルバートの残りの服も魔術で取り去り、水の玉でウィルバートを包んだ。  全裸で水に包まれるウィルバート。じつに美しい筋肉だ。マティアスは自身の身体から熱が沸き起こるのを感じた。  マティアスは自身の着ていた服も魔術で一瞬で脱ぎ去った。水の中でウィルバートが目を見張る。マティアスは両手を広げその水の玉へと飛び込みウィルバートに抱きついた。ウィルバートもまた飛び込んできたマティアスをしっかりと抱き返してくれた。  水中でウィルバートが優しく微笑み見つめてくる。マティアスもまたウィルバートを見つめた。どちらともなく自然と唇が合わせられた。  マティアスはウィルバートの肩に、ウィルバートはマティアスの腰に腕を回ししっかりと抱き合い深く舌を絡ませ合う。  ぴったりと合わさった肌からウィルバートの体温を感じ、互いに生きていることを強く実感した。 「ぷはっ!」  先に息が持たなくなったマティアスが空気を求めると水の玉が割れ、バシャッ! と部屋の床に大量の水が溢れ出した。  ハアハアと息をするマティアスを、同じく荒く呼吸をするウィルバートが見つめて笑った。 「これが使えるなら、洗髪をあんなに我慢しなくても良かったんじゃないか」  二人の足元で水がスルスルと消えて無くなっていく。それと同時に温かな風が二人の身体を包み髪を乾かし、ロッタが用意してくれた寝巻きも魔術で一瞬にして身に付けさせた。 「魔術、使わない約束だったから……」  マティアスは言い訳のようにぽつりと呟いた。  それを聞いたウィルバートは「フフッ」と笑い、マティアスの下腹部を薄い寝巻き越しに指先で撫でる。 「結構、使ってたじゃないか。魔術」  マティアスはその意味深に臍の下を這うウィルバートの指先に全身が熱くなった。 「薪集め、沢山やらせてごめん……。好きだったんだ。ウィルに盥で髪を洗ってもらうのが……」  マティアスがそう白状するとウィルバートは優しげな笑顔を浮かべた。 「俺もだよ。俺もあの時間がとても好きだった」

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