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第三章 夏の夜風と共に②

「それがな、なんでもそのアルヴァンデールの王様が近々妃を娶ると。それがなんと男で商人だって街中話題だったんだ!」 「まあ! それって、それって!」 「名前まではわからん。だが……!」 「きっとウィルよね! レオンがウィル以外を選ぶ訳がないもの!」 「話している連中は笑い話にしていたがな。二人とも生きていることが、俺は……嬉しくて、嬉しくて……」  ハラルドは言葉を詰まらせ目頭を押さえた。ヘルガも歓喜の涙を抑えられずエプロンを捲り上げそれを拭った。 「婚礼にバルテルニアの王も招待されるとかで、近いうちに国交を持つんじゃないかとも言っていたぞ!」 「ああ、レオン! 約束を果たそうとしてくれているのね……!」  ヘルガは胸がいっぱいになった。こんなに嬉しいことは無い。五ヶ月間の鬱々とした気分を一気に吹き飛ばす朗報だった。生きているうちにまた彼らに会えるかもしれないのだ。 「しかし、あいつら、そういうコトになってるなんてよぉ。仲が良すぎるとは思ってたけどなぁ」  ハラルドが口悪く、しかし嬉しそうに二人を語る。ヘルガはとっくに二人の出す新婚夫婦のような空気に気付いていたが。 「ヴィーは、どうなったのかしらね……」  嬉しさの中に燻ぶる黒い影。  その疑問をヘルガは口にせずにはいられなかった。 「そこまではわからんな……」  ハラルドが残念そうに応えた。 「そう、よね……」  あの時、ヘルガは可能ならばヴィーも助けて欲しいとレオンに頼んだ。頼んでしまった。それが彼らの負担になっていないかが心配だった。しかしヴィーも助かってほしいと願わずにはいられなかったのだ。  夕陽がすっかり沈み、外は濃い紺色を纏い始めていた時、『コンコン』と玄関扉をノックする音が響いた。 「はいはい、どなたですかな」  ハラルドが応対に向かう。きっとこの時間なら近所の誰かだろう。この作りすぎたスープを持っていって貰おうか、などとヘルガは考えながら再び鍋に向った。 「ん? 坊主、どうした?」 「奴隷市から逃げてきました。助けてください」  ハラルドの声とともに耳に入ったのは子供の声。ヘルガは慌てて玄関に駆け寄るとハラルドが少しだけ開けていた扉を大きく開かせそこを見た。  そこにいたのは短い金髪と青い瞳の少年だった。

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