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番外編: Homunculus [1]
「あああぁぁぁ!! 嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ!!」
夜明け前のバルヴィア山山頂。動かなくなったマティアスを抱きしめウィルバートは叫んでいた。
「マティアス……っ! 嫌だ、マティアスっ!」
溢れ出た涙がマティアスの雪のように白くなった頬に落ちる。そのうっすらと開いた緑の瞳にはもう何も映っていない。
泣いてマティアスの亡骸に縋り付いていると、呼吸が苦しくなった。毒霧に肺を蝕まれ息が吸えない。胸を掻きむしり必死に苦痛に抗う。
途端にマティアスの身体が突然縮み始めた。
「あ……ああぁぁっ!!」
美しい頬が落ちくぼみ、肌がみるみる干からび、美しい金髪は抜け、骨が浮き出てくる。
あたりは明るくなり一斉に草が伸びマティアスの亡骸を覆っていった。
「嫌だっ! マティアス! ああぁぁ!!」
ウィルバートは骨だけになったマティアスを抱きしめた。ただなす術無く、草と花に包まれたその骨を抱きしめ泣くしかった。
「……ィル……ウィル……」
すぐ近くから自分を呼ぶ声がしてウィルバートは目を開けた。暗闇だがわかる愛しい人の顔。
「マ、マティアス……っ」
「うなされてた……。凄い汗だ……」
マティアスはそう優しく囁やき、ウィルバートの額や首筋をローブの袖で拭ってくれる。
「ああ……っ、マティアス……!」
ウィルバートは先ほどの光景が夢であったことに安堵し、マティアスの腰に抱きついた。
「お前が……お前が……」
夢だとわかったのに恐怖心が消えない。
「山の夢を見てたんだね……。大丈夫だ。もう終わったんだ。もう大丈夫……」
マティアスは優しげな声色でなだめ、ウィルバートの背中を撫でながら横たわると、頭を胸に包み込むように抱きしめてくれた。
絹の薄いローブ越しに感じるマティアスの胸。ウィルバートは鼻先を擦り付けるようにその胸元に顔を埋める。
健康的に張った皮膚と筋肉の下で確かに鼓動している心臓。鼻腔から入る温かなマティアスの香り。
生きている。マティアスが確かに生きている。
ウィルバートはマティアスに優しく髪を撫でられながら再び眠りへと落ちていった。
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