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番外編: Homunculus [2]*

 ウィルバートは髪を撫でられる心地よさを感じつつ目を覚ました。 「ん、マティアス……」 「おはよう、ウィル」  こちらを見下ろしているマティアスを見てウィルバートはハッと身を起こした。カーテンの隙間から射し込む陽の光。もうすっかり朝だ。 「す、すまん、今何時だ?」 「いいよ、寝てて」  そう優しく言うマティアスは既に身支度を整えていた。以前と変わらない黒い服。しかし形はウィルバートの勧めもありより洗練されたものに代わりもう僧侶には見えない。肩に着かない程度の長さの金色の髪は、うしろへ撫でつけてきっちりと襟足で結んである。 「午前中に一件、謁見の要請があって。あと三十分位で行かないと」 「そうか。すっかり寝坊してしまった……」  ウィルバートが国王マティアスの婚約者として城で暮らし始めひと月半。『黒霧の厄災』以降、悲惨な体験が夢に出てきてうなされることがあり、見た時は大抵疲れ果てて朝起きられない。  せめて身支度を整えてマティアスを見送ろうと身を起こそうとすると、ベッドに座っていたマティアスがウィルバートの胸に手を置き、起き上がることを止めてきた。 「赤くなってる」  マティアスはそのままウィルバートの胸元を指先で撫でる。  夢の中での息苦しさから無意識に胸を掻きむしっていたようだ。喉元から胸にかけて赤い筋が何本も走っていた。 「大したことないよ」  その言葉を無視して、マティアスはかがむとウィルバートの喉元の赤い筋にくちづけを落とす。そしてそれと同時に指先に金色の光が灯し、赤い筋を辿りながら治癒していく。  治癒続けながらマティアスが喉元から顔を上げてウィルバートを見つめてきた。潤んだエメラルドの瞳。その縁が赤く染まりつつある。  その匂い立つような色気にウィルバートは寝起きで硬くなっていた下半身がさらに熱を帯びていくのを感じ焦った。 「マ、マティアス……治癒はいいよ。これ以上はまずい……」  ウィルバートは昂りつつある状況を正直にマティアスに伝えると、マティアスは恥ずかしそうに目線を逸らし呟いた。 「だから、三十分しか無いって言ってるだろう……」  マティアスはウィルバートの胸から手のひら滑らせその主張している股間の昂りを撫でてきた。 「マ、マティアスっ」  マティアスは右手でウィルバートの股間を撫でつつ、左手をローブの合わせから滑り込ませウィルバートの胸を直に触る。そしてさらに唇に唇を寄せてきた。  合わせられる愛しい人の柔らかな唇の感触。ついばむような優しいキスの合間で舌が唇をなぞってくる。誘われるままにウィルバートも舌を差し出しマティアスの舌を追う。 「カイぃ……入れてよ……」  唇を離しつつマティアスが甘く濡れた声で囁いた。『カイ』はもはや閨でしか呼ばれない名だ。愛する者からのお誘い。拒否する理由などどこにも無い。  ウィルバートはマティアスの黒いズボンに手をかけるとボタンを外し、下着と共に脱がした。それを皺にならないようにベッドの端へ伸ばしたまはま放り投げる。そしてマティアスを自身の腰に跨がらせ、枕元の小さな引出しから香油の小瓶を取り出すと少量手に取り、マティアスの尻の合間に塗りつけた。 「ぁんっ……」 「ああ、凄く悪いことをしている気分だ」  マティアスは上着の詰め襟を首元までしっかりと留めているのに、下は白い太ももを晒し、股間は興奮の証にピンクの性器がしっかりと勃ち上がっている。  ウィルバートはニヤけながらその愛しい蕾に指を差し入れた。昨夜もしっかりまぐわったそこは柔らかく綻んでいる。 「すぐ入れて大丈夫そうだな」 「んっ、カイ……っ!」  マティアスはたまらなさそうに頬を赤らめ、腰をくねらす。 「このまま乗って」  整えた髪が乱れないように、となると向き合って抱き合うのが良さそうだ。以前ルンデ村の丸太小屋で、盥に浸かりながら同じことをさせたことがある。  上着の裾が汚れないように捲り上げてやると、マティアスはウィルバートの昂りに手を添えつつ、自ら蕾に誘導するとゆっくりと腰を下ろしてきた。 「ん……っ、ああぁ……っ」  たっぷりと色気を含んだ溜め息がマティアスの唇から漏れ、ウィルバートの昂りがその綻んだ蜜壺に飲み込まれていく。 「あぁ……凄くいいよ、マティアス。動けるか?」  ウィルバートの指示にマティアスはゆっくり腰をゆすり始めた。 「はぁんっ、あっ、あっ」 「凄いな。昨夜あんなにしたのに、足りなかったのか?」  昂った巨塊を下の口で飲み込み、必死に快楽を追うマティアスにウィルバートはニヤけながら尋ねた。するとマティアスは目元を潤ませ、思わぬ言葉を吐き出した。 「だ、だって……カイ、今朝ずっと私に……触ってて……っ」 「え……」 「が、我慢してたんだけどっ……」  どうやらウィルバートは悪夢から逃れるようにマティアスに甘え、その胸に抱き締められながらも無意識にマティアスの身体を撫で回していたらしい。なんとなくだがそんな感触が手に残っている。 「す、すまん……」  ここ最近二人お揃いで着ているローブも悪いのだ。アルヴァンデール特産の真っ白な絹を使用たつるりとした滑らかな肌触りのローブ。それに包まれたマティアスの弾力ある肌を触るのが好きだとウィルバートは自覚していた。 「ぁんっ……カイぃ、もっと奥ぅ……!」 「ん、こうかっ?」 「はぁんっ!」  マティアスの要求にウィルバートは下から腰を突き上げた。 「マティアス、裾持ってて」  さらにウィルバートは汚れないように捲っていた服の裾をマティアスに持たせ、空いた両手でマティアスの細い腰を持った。 「ほらっ! いいかっ?」 「あんっ! あっ、あっ!」  掴んだ腰を引き寄せ、マティアスの最奥を犯す。中は柔らかく、だがきつく絡み吸い付きウィルバートは強い快感に耐えた。 「ああ……いいよ、マティアス」 「はぁんっ、カイっ、ん! んあぁ……!」  揺さぶられ、ふるふると揺れるマティアスの中心部は先端に蜜を滲ませていた。ウィルバートはさらに抜き挿しのリズムを速め、マティアスを刺激する。 「あんっ! あっ、で、出ちゃうっ」  マティアスの宣言にウィルバートはシーツを手繰り寄せマティアスの男性器を包んでやった途端、マティアスの後孔がウィルバートをきつく締め付けてきた。 「んあっ!!」 「ああっ、俺もっ!」  マティアスが身体を震わせシーツの中に精を吐き、ウィルバートもまたつられるようにマティアスの腹の奥に欲望の証を注いだ。  互いに息を切らし見つめ合い、余韻に浸る。  生きている。マティアスが生きている。  血の通った愛する人の熱い身体を抱きしめ、ウィルバートは幸せを噛み締めた。  その時、コンコン、とノックの音と共に「ロッタでございます」と声がかかった。返事を待つこと無く静かに寝室に入ってきたマティアス専任の侍女ロッタは、天蓋の幕が閉じられたベッドの外から呼び掛けてきた。 「陛下、そろそろお時間でございます」  息を乱しすぐに返事ができないマティアスに変わり、ウィルバートが口を開いた。 「ロッタ様、申し訳ございませんが、お客様にあと二十分……いや、三十分お待ちくださるようお伝えください」  ロッタは静かに「かしこまりました」とだけ言い、退出していった。  まだ繋がったままのマティアスが困ったようにウィルバートを見つめてくる。 「まだする気か?」  その質問にウィルバートは笑った。 「したいのは山々だが続きは夜だ。少し熱を冷まさないと。こんな顔のマティアスを人前に出せない」  ウィルバートはマティアスの首元のボタンを二つ外しその熱を逃がす。激しい運動でマティアスはすっかりのぼせて頬が上気し、額にも微かに汗が滲んでいた。後れ毛が額にはらりとこぼれなんとも色っぽい。 「どんな顔だよ……」  マティアスは自身の頬に手のひらを当てその温度を確かめながらウィルバートの腰から降りた。そしてすぐに下腹に手をかざし魔術でウィルバートの精を身に取り込み始める。  二人が身体を重ねるようになって五ヶ月半。  想いを通わせてひと月半。  マティアスのこの魔術による事後処理は二人の営みに於いてごく自然な行為になりつつある。  そしてウィルバートが当初感じていたマティアスの中を汚すことへの罪悪感も薄れていた。

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