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第3話

 理知と会わなくなってから(何故だか〝別れた〟という言葉は使いたくない。きちんと〝もうやめよう〟と宣言して去られたにもかかわらず)また出会い系サイトを始めた逸生である。  今しばしば連絡を寄越すのは、サトウカズオ。あまりに偽名臭いので漢字が佐藤一雄か和生か数夫か……覚える気にもなれないが、そんなような名前である。本名でないのはお互い様だ。  会ったのはたぶん片手の指に満たない回数である。最初のうちは清らかなデートばかりだった。  逸生は単に性処理のために出会い系を利用しているのだから、やらないのなら会うのはよそうと思ったわりに、サトウカズオに呼び出される度に出かけていた。  一人になって暇を持て余していたせいもある。  やっと四回目のデートでセックスに到る。  何と言うか……サトウカズオにふさわしいセックスだった。可もなく不可もなく。 「あ、ごめん。勃たないや」などと平気で言い出す理知とは比べようもない。  逆に出来る時は一晩中それこそ腰が立たなくなるまでやりまくった。その激しさを思い起こすにつけ、サトウカズオに物足りなさを覚える。  出会い系サイトでまた別の男を探せばいい……いや、実際にサトウカズオとの清いデートの合間に別の男とセックスだけしたこともある。  しかし、まあ、何というか……別にわざわざ他の男を選ぶこともないかと思ったりもする。  今になって悔やむのは、まるでリアルな恋人同士のように谷津理知とデートだの半同棲だのしてしまったことである。別に出会い系サイトでセフレを探すだけでよかったのに。  同性愛者には結婚というゴールがないのだ。共白髪まで連れ添うなどあり得ないのだから、浅く短くつきあっていればよかったのに。  理知とのつきあいも冷静に考えてみれば、ほんの一年程度だった。服飾デザイン学校を卒業した理知が婦人服メーカーに就職すると仕事の多忙さで殆ど会えなくなった。  しびれを切らした逸生が理知のワンルームアパートを訪ねてみれば、知らない男がいるのだった。  いつの頃からか理知はその男と同棲を始めていたらしい。 「もうやめよう。会うのはよそう」  などと言われるまでもなく、自尊心をくじかれた逸生は二度と理知に連絡をしなかった。  気がつけば居間の服飾野性の王国は、いつの間にか殺風景な居間に戻っていた。  卒業制作に必要だの就職先に持って行くだのと理由をつけては、理知はあれこれ道具を運び出していたのだ。  そうなっても尚、逸生はいつか帰って来るだろうと壁に残された理知が撮った写真のパネルを飾ったままだった。  あのカロカロ犬と老人の後姿。学祭や卒業制作で逸生がモデルを務めた際のポートレート等々。  それらを取り外したのは、別れを宣言された直後である。それでも捨てるのも憚られ、押し入れに放り込んである。  あれからようやく一年程たつのだろうか。差し込む日差しで焼けた壁紙に何か所か四角く真新しい色が残っているのは、パネルが掛かっていた跡である。  サトウカズオとだって、セックスに飽きたら別れるのだから、そうそう恋人じみた交際などしなくてもいいのだ。

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