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③ 猫だと思っていたら、猫獣人でした
ライオネルと名乗った人間に付いていくと、まずはお風呂、それから食べ物をもらった。
久しぶりにお腹いっぱい食べたし、ずっと張っていた緊張の糸が緩んだのか、一気に眠気が襲ってきた。
「ここは大丈夫だよ。安心して眠るといいよ」
用意された温かな布団に身を委ねる。
こんなにふかふかの布団に入るのは、レオと一緒にいた時以来だ。
幸せいっぱいだった頃を思い出しながら、アルは瞬く間に眠りについた。
どのくらい眠っていたのだろうか。目を覚ますと、あたりはすっかり暗くなっていた。
いつものように、グーンと伸びをしようとした。
……が。何かがおかしい。
「え……?」
アルの口から出たのは、いつもの猫の声ではなく、しっかりとした人間の声。
そして、白い毛に覆われていたはずの手が、体が、つるつるとした肌になっていた。
「ええええーっ?!」
叫ぶと同時に、よく人間がやっていた、困った時に頭を抱える仕草を無意識にやると、そこにはふたつの触り覚えのある耳。
そして、おしりからは馴染みのあるしっぽがあって、ブワッと毛で大きく膨らんでいた。
思わず大きな声で叫ぶと、隣の部屋からなにかふわふわしたものが、すごいスピードでやってきた。
「にゃにゃっ!?」
明らかに驚愕しているような鳴き声とともに、アルの眼の前に飛び込んできたのは、毛足の長い茶トラの猫だった。
「ライオネル、猫飼ってるんだ? 一人だから話し相手になってよって言われたのに、なんだよ…………じゃなくて!! なんで僕、人間みたいになってるの!?」
普通の独り言のように疑問を口にしたけど、この異常事態に途中で気付き、芸人さながらのツッコミを入れた。
アルが猫として生きていた前の世界は、人間が中心で、他に色々な種の生き物が生息していて、今のアルのような、人間と猫が混ざったような生物なんて存在しなかった。
「これ、もしかして獣人ってやつ?」
アルの飼い主だったレオは、とにかく読書が好きだった。アルが文字を読めなくても、話して色々聞かせてくれた。
猫だった頃は、それを理解することは出来なかったけど、生まれ変わった今、その知識はなぜかアルの中にしっかりと残されていた。
そう気付いたアルは、現状を自分なりに整理した。
おそらく、異世界転生をし、猫獣人になったのだろう。
猫の姿にも、人間の姿にもなれる種なのだろうか。
……ということは。
と、そこまで考えて、目の前の猫を見て、呼びかけてみた。
「ライオネル?」
「にゃんっ(そうだよ!)」
「ああ。やっぱりそうなんだね」
「にゃん(キミも猫獣人だったんだね!)」
猫獣人だからなのか、相手が完全に猫の姿でにゃんとしか言わなくても、ちゃんと会話はできる。
やけに都合よく物事が進むな……と思うが、自分の知ってる世界と違うのは明らかで、いちいち驚いてなんかいられない。
これから起きることは、そういう事もあるんだなと深く考えずにいたほうが、ここではスムーズにいくのだろう。
アルの最終目的は、レオに会うこと。
それまでは、ライオネルに協力を仰ぎながら、転生について調べていくことにした。
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