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③ 猫だと思っていたら、猫獣人でした

 神様に会えないままだったけど、せっかく元気な体を手に入れたのだから、まずはこの世界を探検してこよう! ……僕はそう考えて、白い空間から一気に飛び出した。すると目の前は一気に色鮮やかになり、花の香りや美味しそうな食べ物の匂いが鼻をくすぐった。 「にゃあっ!」  やった! なんか楽しそうな場所に出たぞ! 僕は嬉しくて思わず一声鳴いた。そしてヒゲをピクピクさせて空気を思い切り吸い込んだ。うーん、気持ちいい! 軽い足取りで散歩をしようと踏み出したところで、僕の周りに人間がいることに気づいた。 「おい、猫が突然現れたぞ」 「転生者なのか?」 「わからない。とにかく保護しよう」  レオと暮らしていた時も、少しは人間の言葉を理解していた。けれ今はどうだろう。この人達が話している言葉のすべてを理解できている。僕を保護? 嫌だよ。せっかく自由になったんだ。捕まってたまるか! 僕は全速力でその場から逃げ出した。 「あ! 待て!」 「おい、そっち行ったぞ!」  それから公園を出て街中を逃げ回った。僕は体もそんなに大きくないし、すばしっこい。しばらく走り回っていたら、人間たちも諦めたようだ。散々走り回って僕も疲れちゃったから、さっきの公園まで戻った。なにも食べていないから、お腹も空いてきてしまった。でもまた人間に追いかけられたくないから、今日は公園の遊具の裏で休むことにした。  しばらくして、さっきの人間とは雰囲気の違う人間がやってきた。なぜだろう。少し懐かしい匂いがする気がする。捕まりたくないけど、ここから逃げる気力もない。警戒しながら身を縮こませていると、腫れ物を触るかのようにそっと僕を撫でてきた。なんてやさしい手なんだろう。  この人はきっと僕の嫌がることはしない。なぜかそう思った僕は、家に来ないかという提案に乗ることにした。  ライオネルと名乗った人間に付いていくと、まずはお風呂、それから食べ物をもらった。久しぶりにお腹いっぱい食べたし、ずっと張っていた緊張の糸が緩んだのか、一気に眠気が襲ってきた。 「ここは大丈夫だよ。安心して眠るといいよ」  優しい言葉に甘えて、用意された温かな布団に身を委ねる。こんなにふかふかの布団に入るのは、レオと一緒にいた時以来だ。幸せいっぱいだった頃を思い出しながら、僕は瞬く間に夢の中に吸い込まれていった。  どのくらい眠っていたのだろうか。目を覚ますと、あたりはすっかり暗くなっていた。いつものように、グーンと伸びをしようとした。  ……が。何かがおかしい。 「え……?」  僕の口から出たのは、いつもの猫の声ではなく、しっかりとした人間の声。そして、白い毛に覆われていたはずの手が、体が、つるつるとした肌になっていた。  「ええええーっ!?」  叫ぶと同時に、よく人間がやっていた、困った時に頭を抱える仕草を無意識にやると、そこにはふたつの触り覚えのある耳。そして、おしりからは馴染みのあるしっぽがあって、ブワッと毛で大きく膨らんでいた。  思わず大きな声で叫ぶと、隣の部屋からなにかふわふわしたものが、すごいスピードでやってきた。 「にゃにゃっ!?」  明らかに驚愕しているような鳴き声とともに、僕の眼の前に飛び込んできたのは、毛足の長い茶トラの猫だった。   「ライオネル、猫飼ってるんだ? 一人だから話し相手になってよって言われたのに、なんだよ…………じゃなくて! なんで僕、人間みたいになってるの!?」  普通の独り言のように疑問を口にしたけど、この異常事態に途中で気付き、芸人さながらのツッコミを入れた。僕が猫として生きていた前の世界は、人間が中心で、他に色々な種の生き物が生息していて、今の僕のような、人間と猫が混ざったような生物なんて存在しなかった。 「これ、もしかして獣人ってやつ?」  僕の飼い主だったレオは、とにかく読書が好きだった。僕が文字を読めなくても、話して色々聞かせてくれた。猫だった頃は、それを理解することは出来なかったけど、生まれ変わった今、その知識はなぜか僕の中にしっかりと残されていた。そう気付いた僕は、現状を自分なりに整理した。  おそらく、異世界転生をし、猫獣人になったのだろう。猫の姿にも、人間の姿にもなれる種なのだろうか。……ということは? そこまで考えて、目の前の猫に向かって呼びかけてみた。 「ライオネル?」 「にゃんっ(そうだよ!)」 「ああ。やっぱりそうなんだね」 「にゃん(キミも猫獣人だったんだね!)」  今の僕は猫獣人だからなのか、相手が完全に猫の姿でにゃんとしか言わなくても、ちゃんと会話はできるみたいだ。やけに都合よく物事が進むな……と思うけど、生まれ変わったこの世界は僕の知ってる世界と違うのは明らかで、いちいち驚いてなんかいられない。これから起きることは、そういう事もあるんだなと深く考えずにいたほうが、ここではスムーズにいくのだろうと自分に言い聞かせた。    僕の最終目的は、レオに会うこと。そして、ありがとう大好きって伝えるんだ。それまではライオネルに協力を仰ぎながら、この世界のことをたくさん知っていこうと思った。

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