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買い物デート ⑥

「篠田……と、紗季……」 出来れば、今日は二人に会いたくなかった。月曜には嫌でも顔を合わせることになるんだから、どうして今ここで会うんだとタイミングの悪さにうんざりする。 折角楽しかった気分も台無しだ。 「って言うかさ、なんで昨日勝手に帰ったわけ? 激萎えなんだけど」 篠田の、少し苛立ったような声。 「俺があそこに居る意味なんて無かっただろ」 あんな屈辱、二度と味わいたくない。強く握った拳がわなわなと震える。 「別に帰る事ねぇじゃん。あ、そっかそっか。彼女に弄ばれてたってわかって逃げ帰ったんだ?」 「……」 「何も言い返せねぇんだ? でもまぁ、短い間だったけど楽しかっただろ? コイツ、ブランドもの買って欲しいって五月蠅くってさぁ、お前ん家金持ちじゃん? だから、俺の代わりに買ってくれっかなって、お前を紹介したんだけど。お礼に一回くらいヤらせてやろうかと思ってたのに、全然手ぇ出さなかったらしいじゃん? 残念だったな。せっかくの筆おろしのチャンスだったのに。まぁ、俺等もそこそこ楽しめたし? そろそろ潮時だったから、丁度良かったけど」 「くっ!」 篠田の、人を小馬鹿にしたような物言い。その傍らでニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている紗季が目に入って、思わずカッと頭に血が上る。 一瞬でもこの男を友人だと思っていた自分が許せない。 「でもまぁ、勝手に帰るのは想定内だったとしてさぁ。どうせ帰るなら全員分のカラオケ代くらい払って帰ったって良かったんじゃね? 自分の分だけ払って、ちゃっちい割引券だけ置いてくとか、せっこい事しないでさ。そこは、空気読めよ。ったく。ないわー」 なんでコイツにそんな事言われなきゃいけないんだ! 結局、コイツにとって俺は友達でも何でもなく、ただの金蔓でしかなかったのだとわかって、絶望と怒りとが一気に湧き上がる。 「くそ、おま――」 「もういい。椎名」 「え……?」 感情にまかせて言い返しそうになった俺の肩を、露木君がガシッと掴んだ。 背後から、チッと言う氷のような舌打ちと共に、露木君が小さく「馬鹿が……」と呟いたのが聞こえたけれど、それがどういう意味なのかはわからなかった。 俺を庇うように前に出た露木君が、氷のような冷ややかな空気を纏って、二人を睨み付ける。

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