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買い物デート 10

「あぁ、あれは椎名じゃなくて、アイツを見てたんだ」 「アイツ?」 「篠田の事だよ。僕、アイツと同中だったんだ。 まぁ、アイツとは一度も同じクラスになった事は無かったし、僕みたいな地味キャラには興味が無いだろうから、向こうは覚えてないだろうけど。中学の頃から狡賢いって有名で、椎名みたいなちょっと抜けててお人好しの金持ちをターゲットにして金品を捲き上げて弄ぶ悪名高い、学園一の性悪だって有名だった」 「ちょっと抜けててお人好しって」 今、もしかして何気にディスられてる?  「事実だろ。だから、あいつが高校に入って直ぐ椎名に近付いた時、もしかしたらって思ったんだけど、確証が無くて」 「そう、だったんだ」 「ずっと、教えてあげたかったんだけど、僕、人見知りが凄くてさ。椎名はアイツの事友達だと思ってるだろ? だから、僕なんかがいきなり友達止めた方がいいよなんて言ったってさ、多分信じて貰えないと思って」 「なんだ、そうだったんだ」 だからだったんだ。しょっちゅう目が合うなぁとは思ってたけど、何も言わないし、直ぐ目を逸らされちゃってたから、ずっと嫌われてんのかと思ってた。 「それに、椎名の事僕は嫌ったりしないよ。だって僕、きみの事がずっと前からす……」 そこまで言いかけたタイミングで、近所の小学校から、子供達の帰宅を促す下校のチャイムが鳴り響いた。 露木君は、ハッと我に返ったように口を噤む。 今、何を言いかけた? 俺の事が前から……何? 「そ、そうだ! ちょっと一カ所寄りたい場所があるんだけど、いいかな?」 その続きは? 気になるのに、無かったことにしたいのか、露木君が慌てて話題を変えようとする。 「別にいいけど、それよりさっきの……」 「っ! いいから、ほら。早く行こう!」 露木君は誤魔化すようにそう言って、サドルに飛び乗った。そして、そのままペダルを漕ぎ出すから俺は慌てて後を追う。 「ちょ! 露木君! 待ってよ」 一体なんなんだ。さっきの言い方だとまるで――。 もしかして、俺の都合のいいように解釈してもいいんだろうか? どうしよう。もし、もしも……《《そう》》だったら……嬉しい。なんて、思ってしまう俺はおかしいのだろうか? まだ確定じゃないけど、ずっと憧れてた人がもしかしたら自分の事を好きかもしれないなんて、そんな夢みたいなこと、あるわけない。 でも、もし本当にそうだとしたら、俺は――。 きっと何かの間違いじゃないか?って気持ちと、浮かれてどうしようもない位 嬉しい気持ちが綯交ぜになって、叫びだしたい気分だ。 だからきっと、声が上擦っていたのはその所為だと思う。 「露木君、待ってよ!」 俺はこの気持ちに蓋を閉める事も出来ずに、ただ期待が膨らんで行くのを感じながら、露木君の背中を必死に追いかけた。

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