39 / 102

買い物デート 15

いくら初夏とは言え、夜になるとやはり少し肌寒い。 でも、火照った顔や体を冷やすには丁度良いのかもしれない。人もまばらになったローズガーデンを露木君と肩を並べながら歩く。 「さっき、莉々子さんに何か言われてただろ」 「っ!」 露木君の言葉に思わず肩が跳ねた。 「な、なんで!?」 「だって、莉々子さん、椎名の事じーっと見てニヤニヤしてたし、なんか椎名の態度が変だし」 「そ、それは露木君が……」 「僕のせい? なんで?」 「なんでって……」 露木君は、ちょっと意地悪い時の表情で俺の言葉の続きを待っている。 「露木君が、誤解されるような事するからだよ。”頑張れ”って言われたけど。 意味わかんないし」 「……」 俺の言葉に露木君は、黙ってその歩みを止めた。 何かを思い詰めたような、少し苦し気な表情に何か言ってはいけないことを言ったんじゃ無いかって俺の胸が不安でざわめく。 「露……」 「そろそろ、もどろっか」 「えっ、わっ」 露木君は俺が口を開きかけたタイミングでそう切り出し、何事も無かったかのように僕の手を取って歩き出した。 男同士で手を繋ぐのは可笑しいだろ、とか、なんで手を繫いでるんだ、とか。言いたい言葉は沢山あるのに、そのどれもが言葉になってくれない。 その手は、冷たい空気に晒されて少しひんやりとしていて、俺の手まで冷えて行くのがわかる。それなのに、何故か胸が熱くて、その手を離したくないと思ってしまった。 自分よりほんの少しだけ大きい背中を見つめながらついていくと、目の前でキラリと光る星が見えた。 「あ! 露木君! 見て! 流れ星が……」 「え?」 「ほら、あ、また!」 俺は夜空を見上げて指をさす。細い三日月の浮かぶ夜空を一筋の光が走った。 「今のは僕にも見えた」 露木君はそう言って、俺に笑い返す。その笑顔に何故か心がザワザワして落ち着かない。 「また今度来よう。次は昼間がいいな」 露木君のその言葉に俺はコクリと頷く。また今度、か……。 《《また》》があるんだな。そんな些細な言葉がこんなにも嬉しいなんて、やっぱり俺はどうかしているのかもしれない。 露木君も同じ気持ちで居てくれるといいな。 なんて、都合のいい事を思いながら、バラの香りが仄かに漂うローズガーデンを、二人並んでゆっくりと歩いた。

ともだちにシェアしよう!