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買い物デート 17

「そうかな? 俺は好きだけど」 少なくとも、いつも食べてるコンビニのお弁当やスーパーの惣菜よりも断然に美味しい。 「……っ」 露木君は口元を手で覆うと、俺から目を逸らした。 学校に居る時にはわからなかった彼の色々な表情が見え隠れして、俺はほんの少し擽ったい気持ちになる。 もっと、露木君の事が知りたい。その細い指先も、薄い唇も、黒い瞳も。全部が俺を魅了して、いつの間にか引き込まれていく。 つい一昨日まで画面の向こうに居た憧れの人と一日中一緒に居て、しかも、その人が俺のために料理を振舞ってくれるだなんて、よく考えたらとんでもない事だと思う。 しかも、俺の家のリビングで、だ。 俺は、この非現実的な状況を改めて認識して、思わず箸を止めた。チラリと此方に視線を戻した露木君と目が合う。 「椎名」 まるで砂糖菓子を溶かしたかのような甘ったるい声が俺の名を呼んだかと思うと、ゆっくりと手が伸びて来た。 「え、なに?」 露木君の手は俺の頬に添えられ、その親指の腹がゆっくりと唇をなぞった。そんな露木君の行動に、俺の心臓がどうしようもなく、バクバクと音を立て始める。 「ご飯粒がほっぺたについてた。椎名ってそう言うとこ、可愛いよね」 そう言って露木君は悪戯っぽく笑う。その笑顔がまた心臓に悪いくらい格好よくて、俺の頬はどんどんと熱を帯びて行く。 今日一日一緒に居た事でだいぶ目が慣れて来たと思ったのに、やっぱり露木君は心臓に悪い! だって、今俺の目の前に居るのが憧れのNaoである事には間違いなくて、その人が今、俺の目の前で笑ってる。そんな、まるで夢のような現実が俺を戸惑わせる。 「か、可愛いとか……男に言うもんじゃないだろ」 そりゃ、露木君に比べたら身長は低いけどさ、それでも! 可愛いだなんて言われるような分類ではけっしてない!  「いや、椎名は可愛いよ」 「な……」 真っ直ぐに俺を見る露木君の瞳の中に、揺らぐ熱を見つけて、俺は思わずゴクリと息を飲む。 「さっさと食べてゆっくりしよっか」 露木君はそう言って、俺から手を離すと、何事も無かったかのように箸を手に取り食事を再開してしまう。 触れられた頬が、熱くて仕方ない。俺は火照った頬を隠すように俯き、もそもそとご飯を口に運んだ。

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