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新たな日常 ②
焼き立てのパンに、この間莉々子さんの工房で買ったローズジャムを塗り、目玉焼きとカリッと焼いたベーコンを添える。そして、コーヒーを飲むためのお湯をケトルで沸かす。
露木君みたいな御馳走を作るのは出来ないけど、この位の簡単な物なら俺にも作れる。
「いい匂い、美味しそう」
「ふぁっ!?」
突然後ろから抱きすくめられて、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「お、おはよう」
「ん、おはよ」
まだ少し眠そうな低く掠れた声が耳元で発せられ、俺の心臓がまたドキドキと激しく騒ぎ出す。
「あ、あのさ……、お、俺。ご飯の準備するから、離して?」
「やだ」
露木君はそう言うと、俺の首筋に顔を埋めて、スゥーっと息を吸い込んだ。
「ちょ、ちょっと! 何してんの!」
「んー……椎名の匂い」
「は!?」
「落ち着く」
そう言って、露木君は俺の肩に頭を乗せた。
「もー、本当にやめてよ。心臓に悪いから!」
俺は全然落ち着かない!! なのに何故か、露木君は毎朝このやり取りを俺に求めて来る。
寝ぼけてるのか何なのかよくわからないけど、何時まで経っても慣れないし、慣れる事なんて無いんじゃないかとすら思えてしまう。
そうこうしている内に、お湯が沸いて、俺は慌てて露木君を振り解いた。
「ほら、コーヒー淹れるから、顔洗って来て!」
「んー」
俺は、少し不満そうな露木君の背中を押して洗面所へと押しやる。
おそらく、真っ赤になっているであろう頬を両手で押さえて、大きく息を吐いた。
「はー、心臓に悪すぎ」
そう呟きながらも、俺の口元は自然と緩んでしまう。
だって、あんな露木君は俺しか知らないし。そんな特別な事、嬉しくないわけがない!
「あ! そうだ。お水やらなきゃ」
ふと視界に入った、少し煤けた鉢植えが目に留まる。
あの日、帰ってから二人で植え直したノヴァリーズ。まだ、蕾も付いていない小さな苗だけど、青々した葉が少しずつ増え始めている。
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