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新たな日常 ③
毎日しっかりと水をあげているのに、花が咲く気配は全くなくて、一体いつになったら咲くのか、正直今の時点では見当もつかない。
一日二日で咲くわけないのはわかってる。だけど、早く見てみたい。 露木君が好きだという、青いバラ。
そう言えば、俺がずっと小さい頃、母さんが似たようなバラを育ててたような気がする。
あそこの工房に置いてあったような真っ青なバラじゃなかったけど、淡いブルーの花びらが綺麗だったから、凄く印象に残ってる。
父の再婚相手が、手入れが面倒だとか虫が付くから嫌だとか大騒ぎして、今はもう見ることは出来ないけど。
「早く咲くといいな」
俺は鉢植えに水をやり終えて、ノヴァリーズの葉をそっと指で撫でる。何かを育てるのは嫌いじゃないし、こうして成長する姿を毎日近くで見守るのはすごく楽しい。
露木君と一緒に何かを育てる事が出来るって言う事がほんの少し嬉しくもある。なんて思ったりもして。
「何してるの?」
いつの間にか戻って来ていたらしい露木君に背後から声を掛けられて、思わず肩が跳ねる。
振り返ると、そこに居るのはいつも学校で見る露木君。さっきまでの甘ったるい雰囲気は、見る影もなくどちらかと言えば陰のオーラを発している。
「学校でも髪上げておけばいいのに」
「いや、いい。面倒だし」
「ははっ、なにそれ。露木君って、学校とキャラ違いすぎだよね」
思わずそう零すと、露木君の表情が一瞬曇った。でも、それは本当に一瞬で。
「別にいいだろ。学校はモテるために行くとこじゃないんだし」
まぁ、ごもっとも。あの眼鏡は性格まで変えちゃう魔法の眼鏡か何かだろうか?
「それに、本当の僕を知ってるのは椎名一人だけでいい」
「……っ」
ギョッと俺は息を呑んだ。絶句する俺の横を通り過ぎ、何事も無いような顔で露木君がテーブルに俺が作った朝食を並べ始める。
露木君。なんて爆弾を落すんだ。
せっかく冷ましていた頬がまたじんわりと熱を帯び始めて、耳の先まで赤く染りそうだ。俺は誤魔化すように、カップに注いだコーヒーを持ってテーブルに向かった。
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