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新たな日常 ④
「そうだ。今日は少し遅くなるから。僕を待たずに晩御飯食べてていいよ」
「えっ?」
「えっ、て。なに? もしかして、一緒に食べたかったの?」
「べ、別に! そんなわけ無いからっ!」
学校へ向かう電車の中、からかうような眼差しで見つめてくる露木君と視線が絡まって、思わず俺はプイッと顔を逸らして、窓に視線を移す。
最近気付いた事だけど、露木君は意外と意地悪だ。
学校に居る時とは違う、俺だけが知っている露木君。その事が嬉しいやら、照れくさいやらで、俺は一体どんな顔をしたらいいのかわからなくなる。
でも、学校に居る時の、どこか人を寄せ付けないような、他人を拒絶するような露木君より、今こうして俺の隣で笑ってくれる露木君の方がいい。
てっきりスマホでも眺めているもんだと思っていたのに、チラリと横目で露木君を見上げたら、バチっと目が合ってしまった。慌てて視線を逸らすと、露木君の忍び笑いが俺の耳に届く。
もしかして、俺の動きは読まれてた? だとしたら、めっちゃ恥ずい!! アワアワと一人脳内で騒いでいると、いきなり露木君の手が伸びて来て腰をグイッと引き寄せされた。それと同時に人の波が押し寄せてきて、あっという間に車内はギュウギュウ詰め状態に。俺は露木君とドアの間に挟まれてしまう。
「大丈夫か?」
露木君の吐息が、俺の耳を掠める。
俺は思わず身を竦めながらコクコクと頷いた。大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。
だって、露木君の体温が、吐息が、俺にダイレクトに伝わってくる。
所謂壁ドンならぬ、ドアドン。推しにこんな事されて、平常心で居ろって方が無理。
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