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近付く距離感 ①

家ではあんなんなのに、学校へ近づくにつれ露木君は口数も減り塩対応になっていく。 学校モードになりつつある彼を目の当たりにして、俺はホッとしたような、でも、少し寂しいような、そんな複雑な気持ちになった。 でも、学校へ来てまであのスキンシップをされたら俺の心臓が持ちそうになかったから、それはそれで良かったのかもしれない。 なんて、安心していたのに――。 「え……うそ、だろ?」 数カ月に一回の席替えの日。自分の引いたくじは一番後ろの端っこ。それは全然いい。 寧ろラッキーと言うべきだろうか。 でも 隣の席に書かれた名前をみて、思わず目を見開いてしまった。 「よろしく」 にこっとマスク越しでもわかるくらいの爽やかな笑顔。そう、隣の席は露木君だった。 「あ、よ、よろしく」 動揺を悟られないよう、引きつった笑みで返す。まさか、隣の席になるなんて……。 で、でも! 大丈夫。だって、露木君は学校では塩だし。 だからきっと、学校では何もない筈! それはそれでちょっと寂しい気もするけど、でも、今はちょっとだけ安心できる。 「椎名。教科書見せて」 「へっ?」 「古典の教科書、今、注文中なんだ」 「そ、そっか。この間の火事で……」 「うん。あまり使わない教科は家に置いてたから。カバンが重くなるのは嫌だし」 「ごめんね」とそう言って、露木君は机をくっ付けて来る。 「っ!」 近い! 露木君、距離が近いよ!!  露木君の長い睫毛とか、ふわふわの髪の毛がすぐ傍にある。 それに、ふわりと香る爽やかなバラの香り。そのどれもが俺の心臓を激しく脈打たせる。

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