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近付く距離感 ②
「どうかした?」
「な、なんでもないっ」
「そう?」
露木君はそう言うとそれ以上追及することはせずに、何事も無かったかのように前を向いた。
こうやってよく見たら、横顔はやっぱりNaoだ。なんで今まで気付かなかったんだろう?
露木君の横顔、結構好きかもしれない。涼し気な目元とか、通った鼻筋とか、男らしくて格好いい。
降ろした前髪と、いかにもお堅そうなかっちりとした眼鏡に表情がほとんどわからない黒いマスク。
今の露木君はそのミステリアスな雰囲気にクールさが合わさって、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
何だかもったいない気もするけど、女子達が露木君の本当の姿を見てキャァキャァ言い出したりしたらちょっと嫌かもしれない。
って、いやって……。別に、女子に露木君がどう思われたって俺には関係ない筈じゃないか。 別に同担拒否とかそう言うの俺にはない筈なのに。
どうしてか、露木君がNaoだってわかってから妙に心が落ち着かない。
そう言えば俺、今朝……露木君とキ、キス……しちゃったんだよな? マスクの下に隠れてる口元のホクロとか、ちょっと薄めの唇とか――。
露木君の唇の感触を思い出して、無意識のうちに自分の唇を指でなぞる。
露木君の唇、柔らかかったな。それに、なんかいい匂いがして……。
って! 何を思い出してるんだよ、俺!
なんだかヘンタイっぽく思えて一人でぐるぐるしている俺の顔を、露木君がひょいと覗き込む。
「うひゃっ」
急接近してきた顔に驚き、俺は思わず身を仰け反らせて変な声を上げてしまった。
「うひゃ、ってなに? ……そんなに意識して貰えるなんて、嬉しいな」
可愛い。と、耳元で息を吹き込むみたいに腰に響く低い声に囁かれて、身体中の熱がブワッと上がった気がした。
「ち、ち、違うからっ! そんなんじゃ……っ」
「椎名~。授業中だぞ。なに騒いでるんだ」
「っ、す、すみませんっ」
あ、あぶねぇ。
思わず大声を上げてしまった俺に、先生がジロリと視線を向けてくる。俺は慌てて居住まいを正して、頭を下げた。
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