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近付く距離感 ④

誰のせいだ! って、叫び出したいのをグッと堪えて無視していると、不意にコツン。と膝に置いていた手に何かが触れた。 最初は気のせいかと思った。  でも、暫くすると今度はもっとはっきりと、その何かが俺の手に重なった。 こ、これってもしかして。 そろりと視線だけを動かせば、俺の手の上に露木君の手が重ねられている。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「っ」 一体なんのつもりなのか。横目で露木君の方を確認してみたけど、露木君は前を向いたまま。視線すら合わない。 でも、手はしっかりと俺の掌に重なってる。 この場合、どうするのが正解なのか。困惑したまま指を動かすことも出来ずに、ただされるがままになっていると、ふいに重なっていたそれが手の甲をゆっくりと撫でてきた。くすぐったくて、慌てて露木君の方を見る。 露木君は相変わらず前を向いたまま。でも、その長い指先がくすぐるように俺の甲を何度も行き来する。それだけじゃ飽き足らず、するりと指が絡んできて、俺の掌はあっという間に露木君に握り込まれて動けなくなってしまった。 ちょ、ちょっと待って! これって……これってもしかして、恋人繋ぎってやつなんじゃないだろうか!? え……なにこれ!?  これ、どうすればいいの? 反応に困って露木君の方へ視線を向けると、彼は静かに「しー」と言って人差し指をマスクの上から自分の唇に当てた。どうやら黙ってろって事らしい。 でも、こんなドキドキしてるのに、いきなりこんな接触過多なスキンシップされても困る。 そっと彼の方を盗み見ると、マスクをしていてはっきりとはわからないけど、僅かに笑っているような気がする。しかも、顔を俺の方へ寄せて来たような……? 「……っ」 もしかして……。 露木君、俺が困ってるのを見て楽しんでる? 露木君ってもしかして、ムッツリなんじゃないだろうか。  なんでそんなに涼しい顔して授業受けれるのか、不思議で仕方ない。でも、その間も露木君は俺の手を握ったり指を絡めたりして、まるで悪戯をするみたいに触れて来る。 「ん……っ」 指の間を擽るように撫でられて、ぞわあっと鳥肌が立った。思わず漏れそうになった声を両手で口を押さえて堪える。 露木君、何考えてるんだよ。

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