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近付く距離感 ⑤

そうこうしている内に、露木君の指は俺の指の付け根や手の甲を撫でたり、指の腹で擦るように触れたりしてくる。その指使いが妙にやらしく思えて、俺はまた変な声を上げそうになった。 「っ……ふ」 露木君の手には何か魔法でも掛けられているんだろうか? 手なんて、いつでも振りほどけるはずだし、きっと露木君だって本気で嫌がる事はしないはず。 なのに、露木君の指使いに翻弄されて、自分の手じゃないみたいに自由が利かない。触れられるたびにゾワゾワと背筋が甘く痺れる。 ふと、露木君と目が合う。すると、彼からフッと微笑まれた。露木くんは絶対にこの状況を楽しんでる。 口を開けば、何か可笑しな声が出てきそうで、俺は掌に爪を立てて必死で声を押し殺した。 ダメだって。ここは教室なんだから。授業中なのに。 そう思うのに、露木君の指は容赦なく俺の指を這いまわる。指の股を擦ったり、付け根を優しくなぞられたり……。俺の身体は意思に反してどんどん熱を帯びていく。 「つ、つゆきく……っに、にぎにぎしないで……っ」 「ふふ、ごめん」 かろうじて発した言葉に応じるように、露木くんの指先がゆっくりと離れていく。 「あまりにも可愛い反応してくれるからつい意地悪したくなったんだ」 「〜〜っ」 しれっと悪戯っ子の顔をしてそんな事を言う露木君に思わず絶句。もしかして俺……遊ばれてる? 露木くんって結構イジワルなタイプなのかもしれない。 「よーし、さっき言ったことを参考にしながら次の文章を……椎名。お前読んでみろ」 「え……」 いきなり指名され、思わず硬直。 正直、先生の話してた言葉なんて何一つ聞いてないし、メモすら取ってない。 教科書を見ても、漢字の羅列と横の方に小さな数字やらおかしな記号ばかりでなにが書いてあるかさっぱりわからない。 「何だ、聞いてなかったのか?」 「あ、い、いえ……っ」 どうしよう。古典の山田先生、厳しいんだよな。全然聞いてませんでしたとは流石に言えない。すると、申し訳なく思ったのか、露木くんが自分のノートをソッと目の前に差し出して来た。 「ここ、そのまま読めばいいよ」 キレイな読みやすい文字で書かれたノートは、すごく見やすくて、どこを読めばいいのか一目瞭然。 「椎名、これ。僕の書いたところだから。それ見て読んでみて」 人に悪戯しておいて、授業はちゃっかり聞いてるその余裕に腹が立つ。だけど、今縋れるのは露木くんしかいないわけで。 色々思うところはあるけれど、背に腹は変えられない。今は、このピンチを切り抜けるほうが先だ。 「……ありがと」 仕方なく俺は意地を張るのをやめて、露木くんのノートに視線を落とした。

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