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近付く距離感⑦

確かに言われてみれば、露木君の話しかけるなオーラがいつもよりほんの少しだけ和らいでいるような気もする。 それにしても……。あの露木くんが席替え一つでご機嫌になるとか、ちょっと可愛いかも。 そんなことを考えていると、不意に頭上に影が差した。 「ねぇ、そこ、僕の席なんだけど」 氷みたいな冷たく硬い声にビクッとして顔を上げる。そこには露木くんが立っていて、不愉快そうに俺達を見下ろしていた。 いつの間に帰って来たのだろうか。全然気付かなかった。 「あ、ごめん。今退くから」 あれ? 機嫌、よかったんじゃなかったっけ? 賢人が慌てて残りの弁当を口の中に搔き込み、露木くんの席からそそくさと立ち上がる。 「じゃぁ、椎名。また後でな!」 「あ、うん」 露木くん、たった今、今日は機嫌が良さそうって話していたのに……。温度差が激しい。 なにもあんな言い方しなくてもいいのに……。 露木くんはいつも以上に何を考えているのか分からない位くらい冷たい目をしていて、俺もその視線に思わず一瞬怯んだ。 何か言われるのだろうか? と、身構えたけど。露木君は何も言わずに自分の席に着くと、眼鏡を押し上げて小さく息を吐いた。 「ごめん。勝手に。居なかったから机使わせてもらってた」 「……別にいいけど。藤丸と仲いいんだ? 知らなかった」 「賢人とは中学が一緒でさ、昔から時々一緒にご飯食べたりしてたんだよ」 「ふぅん、そう」 自分で聞いておきながら、そっけない返事が返って来て、露木君との会話が一瞬途切れる。 なんか……ちょっと気まずい感じになってしまった。なんでかはわからないけど、俺、なにか気に障る事しちゃったんだろうか。 「あの、露木く……」 「……椎名、今晩何食べたい?」 「へっ?」 スッと話題を変えられた。なんだろう、なんだか違和感を感じる。 「晩御飯、椎名の好きなもの作るから。何でもいいよ」 「え、えっと……じゃぁ……、唐揚げ、がいいな」 「唐揚げだね。わかった」 言葉自体に冷たい雰囲気は無く、一見笑いかけられているように思えるけど、 ここ数日よく見せてくれる、見てるこっちが照れて恥かしくなるような、甘い笑顔じゃない。 笑顔なのに、目の奥は笑ってなくて……。 何か怒っているのだろうか? でも、一体何に対して? もしかして、賢人と一緒に昼ご飯食べたかったとか? 本人に直接聞いてみたいけど、理由がイマイチよくわからないからなんとなく聞きにくい。

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