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近付く距離感 ⑧
「これからカラオケに行かないか?」
露木君がそう俺に声を掛けて来たのは、HRが終わって帰り支度をしていた時だった。
今日は昼から様子がおかしかったけど、一体どういう事だろう?
学校では、普段どうりにしておいた方がいいって言い出したのは露木君の方なのに。
「いいけど」
なんでカラオケなんだろう? 露木君の考えてる事って、やっぱりよくわからない。
そう言えば、カラオケの優待券持ってるくらいだし、実は歌うのが好きなのかもしれない。
ただの気まぐれって言う可能性も否定できないけど。
「お? なになに? 露木とカラオケ行くのか? 超レアじゃん。いいな、俺も一緒に行ってもいい?」
目ざとく聞きつけて、賢人も会話に加わって来る。でも、
「ごめん。今日は二人きりで行きたいんだ」
露木君は俺の腕を掴むと、有無を言わせない雰囲気でキッパリとそう言いきった。
「二人きりって、随分とアヤシイ言い方するなぁ」
ニヤッと笑った賢人の言葉にギョッとする。
しかも、露木君は否定しない。それどころか、
「うん、そうだね」
なんて、意味ありげに笑って俺を引き寄せて来るから堪らない。
教室のあちこちで、小さい悲鳴やらどよめきが上がっている。
中には、「え? うそっ!」とか、「マジで?」とか……。完全に誤解されてるっぽい発言まで聞こえて来て、恥ずかしいやら居たたまれないやらで俺は思わず俯いた。
どうしよう、なんか、めちゃくちゃ注目されてるような……。
「椎名。行こう」
でも、露木君はそんなクラスの様子なんて全く気にする事無く、俺の腰を引き寄せたまま、鞄を肩にかけて歩き出す。
「じゃぁ、また明日」
爽やかな笑顔で賢人達に挨拶までして……。
「わ、ちょ……っ露木君っ! ごめん、賢人また明日な!」
「露木、椎名に変な事するなよー!」
教室を出ようとした所で、賢人がそう言って煽るのが聞こえてきて、恥ずかしいやら居た堪れないやらでじわじわと耳が熱くなっていくのを感じる。
「しないよ。……多分ね」
「……ッ」
ぼそりと呟いた言葉は賢人たちには届いてない。けど、なんて事言い出すんだっ!
変な事って……ッ、多分って!
あまりの恥ずかしさに、思わず露木君の手を払い除けて距離を取る。でも、露木君は気にした様子もなく、「なに? どうかした?」なんて、しれっとした顔で言うから……。俺はもう、何も言えなくなって口を噤んだ。
露木君は、一体何を考えているんだろう。やっぱり、謎すぎる。
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