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近付く距離感 ⑩

露木君は、何を歌うんだろう? Naoの配信はくまなくチェックしてるけど、よくある歌ってみたとかそう言うのは無いから、何気に歌声を聞くのは初めてだ。 ちょっとドキドキしながら、デンモクを操作している露木君の手元を覗き込む。 すると、 ピッ、ピッ、ピピッ と、いきなりのイントロが部屋に響き渡った。 え? これ……。 俺が何か言葉を発する間もなく、画面上に曲名が表示された。 それは、今流行りの女性アイドルユニットの曲だった。 しかも、超人気曲。俺も何度かカラオケで歌ったことがある。でも、まさかあのNaoがこれを歌ってくれる日が来るなんて……っ。 何人もの配信者が歌っているのを聞いたことが有るけど、こんなにもドキドキしたのは初めてだ。 やっぱり、いい声過ぎる。 女性の曲を歌っている筈なのに、露木君が歌うと妙にセクシーと言うか、色っぽいというか、全然違う曲に聞こえてくるのはなぜだろう? 低音で響く声が凄く心地いい。思わず手を止めて聞き惚れてしまいそうになる。 「歌、上手いんだね」 「そうかな?」 「そうだよ。俺、ビックリしたもん」 「ふふ。椎名がそう言ってくれるなら、来てよかった」 歌い終わった後の、少し上がった息と、上気した頬。 俺に向かって見せた照れたような甘い笑顔。カラオケを歌っている姿を見て好きになったとかそう言う話をたまに聞くけど、その気持ちがちょっとだけわかった気がした。 「じゃあ、次椎名の番」 「あ、う、うん。えーと……じゃあ、これにしよっかな」 いつも歌う曲だけど、あんな上手い歌を聞いた後じゃ、少し気後れしてしまう。 でも、歌い出してしまえばそんな事は全然気にならなくなって、気付けばあっという間に1時間経過していた。 この間は、篠田達のことがあって、全然楽しめなかったけど、露木君が盛り上げようとしてくれて、楽しく歌うことが出来た。 でも……。露木君は最初の一曲目以降ちょいちょい甘いラブソングを入れて来るから、俺は気が気じゃない。 だって、じっと目を見て歌われたりなんかすると、勝手に顔が熱くなるし、太腿に手が触れてるって思うだけで、何故か必要以上に意識してしまって露木君の顔が直視できない。 「……椎名」 曲の途中で、マイクをコトリと置かれハッとして思わず露木君を振り返った。 俺の肩先に顎を沿わせた露木君が、ふっと微笑んでするりと唇を寄せて来る。 「えっ、な……っ」 ドキッとして、思わず目を閉じた。 ちゅっと、軽いキスが唇に落ちる。 それだけでも、俺にとってキャパオーバー。 なのに追い打ちをかけるように、至近距離で見つめられて微動だに出来なくなった。 「もっと意識して。僕のことだけ考えて」 「っ……」 顎をしっかりと固定され、首を動かすことも出来ないまま、一度離れた唇がまた重なった。

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