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近付く距離感 ⑪

しっとりと唇を吸われて、首の後ろがざわっと粟立つ。 そんな些細な反応もお見通しだと言うように、露木君の手が、宥めるように俺のうなじから背中をゆっくりと撫でた。 「ん……っ」 思わず鼻に掛かったような声が洩れて堪らず顎を引こうとしたけど、それより先に延びて来た指先に顎を掬い上げられて、また唇が重なる。 「ちょ、っと露木く……んっ」 閉じられなかった唇のあいだに、するりと露木君の舌が滑り込んだ。弄ぶように口腔内を探る舌に、どう反応すればいいのかわからない。 逃げるように巻いた舌が、ぬるりと露木君のそれと絡んだ。じわっと染みるような感覚と、ピリッと痺れるような感覚。 上顎を舐められて、思わずゾクリと肩が震えた。 「ん……っん……」 どうしよう、俺……なんか、変だ。 気がつけば、舌を絡め取られ強く吸われていた。どちらのとも判別がつかない唾液が互いの唇を濡らしていく。くちゅくちゅと濡れた音に、頭がくらくらする。 息苦しくなって、思わず露木君の服の袖を掴んだ。縋り付くような体勢は、まるで俺がキスを強請っているみたいだ。 でも、なんだか身体がふわふわして、上手く思考が回らない。 「椎名、僕の事見て」 既に唇が触れ合っている状態で囁かれる。唇が擦れ、言葉と一緒に吐息を吹き込まれるリアルさに、熱く息が乱れた。 「目を逸らさないで。僕だけを見て」 「ンッ……」 今までに聞いたことのない、雄の本能を感じさせるような低い声に、思わず腰が砕けそうになる。 やばい……なんか、俺、すごく変な気分になってる。 こんなエロいキス、したことない。 こんなのはおかしい。 俺達は男同士で、つい最近までただのクラスメートだったはずなのに。 だって、まだ俺にはわからない。男同士で好きだ、とか、恋人になりたいとか。 俺の好きと、露木君の好きって、同じものじゃないはず。 それなのに、こんな……キス、されて。俺、嫌じゃなくて、むしろドキドキしてて。 音を立てて唾液を啜られる生々しい水音に、ぞくんと怪しい震えが走った。 どうしよう、俺。どうしたら、色んな事がわかるようになるんだろう。  ただ、キスは止めて欲しくない、そう思った。

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