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通じ合う
「椎名、今日はどうした? 随分眠そうだな」
ようやく訪れた昼休み。欠伸を噛み殺しながら、なんとか眠気を冷まそうとペットボトルのお茶に口を付けた時、何処からともなくやってきた賢人が、俺の前の席に座りながら首を傾げた。
「ん……、ちょっと寝不足で……」
「ふぅん。徹夜でゲームでもしてたか? それとも、やらしい事考えて興奮して眠れなくなったのか?」
「ぶ……ッ、げほ……ッ」
「うわ、汚ねぇなぁ」
賢人のデリカシーの欠片もない発言に、思わずお茶を吹き出してしまった。慌ててハンカチを取り出して口元を拭う。
「けほっ、ごほっ……っ、おま……っ、何言って……」
「ハハッ、椎名わかりやすすぎ。ウケる。で? なに想像したらそんなんなるんだよ。思春期真っ盛りのエロガキめ」
「うっせ……っ、ほっとけっ!」
「で、答えは?」
「……っ」
ニヤニヤと俺を見つめる賢人の視線に居た堪れなくなって視線を逸らす。そんな俺の様子を見て、賢人は益々面白そうに笑みを深くした。
「ほらほら、素直に吐いちまえ。で? 誰の顔思い浮かべてヌいたのかな〜?」
ニヤニヤ笑う賢人の後ろで、露木君が小さく肩を震わせながら笑っているのが見える。思わず睨みつけると、露木君は慌てて表情を引き締めたけれど、堪え切れなかった笑いが「く……くく……」と漏れ聞こえて来る。
「別にそんなんじゃないって」
「今更イイコぶんなって。俺らの年齢なら毎日シコってもおかしくねーし。彼女とか、好きな奴居たら毎日でもヤりまくりたいじゃん? つか、なんならヤれるんだったら誰でもいいからヤりたいって思うのがフツーだろ」
そう豪語する賢人の言葉にドキッとする。 周囲の女子達からは賢人サイテーと言うブーイングが上がっているけど、俺はそれどころじゃなかった。
だって、それが普通だなんて言われたら、もしかしたらって思うじゃないか。
いつも余裕そうにしてるけど、露木君も実はそう思ってるのかなって。
毎日云々は一旦置いといて、誰でもいいからヤりたいなんて露木君が考えてたとしたら……嫌だ。
そんなの絶対に嫌だ。 昨夜感じたモヤモヤの正体はきっとそれだ。
このモヤモヤとする感情の根っこを辿ってみたら、行き着く先は――……。
あぁ、そっか。多分、俺は露木君に他の誰かの所になんて行って欲しくないんだ。
それが独占欲だとか、嫉妬心だとはまだ認めたくないけど……。
自分の推しだとか、友達だとか。色々な言い訳を重ねて来たけど、こんな気持ちになるのはきっと、俺も露木君の事が好きだからだ。
ドッと、一度大きく高鳴った後、一瞬心臓が止まったように感じた。
どうして? いつの間に……。いや、多分、きっと、最初から。
Naoと露木君とのギャップが凄すぎて気付くのが遅れてしまったけど。
俺は露木君の事が好きで、だから誰にも渡したくないし、よそ見なんてして欲しくないんだって、ようやく気付いた。
なんだそっか、そうだったんだ。まさかこんな形で自分の気持ちに気付くなんて思いもしなかった。だけど、気付いてしまったからにはもう後戻りは出来ないし、したくない。
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