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通じ合う思い ②

「椎名? 急にどうした?」 「あ……、いや、別に……」 俺が急に黙り込んでしまったせいか、賢人が怪訝な顔をする。だけど、なんと答えたらいいのかわからず俯いていると、何を勘違いしたのか顎に手を充てて、ふむ……と何かを考え出した。 「なぁ、椎名。もしかして好きなヤツでも出来た?」 「は!? なんで!?」 賢人の鋭い指摘に思わず動揺して、椅子から転げ落ちそうになる。 「いや、椎名わかりやすいし。つか、お前、今自分がどんな顔してんのかわかってんの? 耳まで真っ赤だぞ」 「え……」 「 案外、好きな奴の事思い浮かべて、ソイツが見境なしだったら嫌だなぁとか思っちゃった感じだったりして?」 「ち、ちが……」 違うと、咄嗟に言い返そうとして言葉に詰まる。だって、賢人の言った事は、あながち間違いじゃなかったから。 「え……マジ?」 「ち、違うって!」 「いや、今の反応でそれは無理あるだろ」 慌てて否定したけど、どうやら逆効果だったみたいだ。賢人がニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくるのを必死に押しのける。 「……っ、だから、違うって! 俺は別に……」 「隠すなよ。なぁ誰? 俺の知ってるヤツ?」 「い、いないってば!」 思わず大きな声が出る。その声に周囲の視線が一斉に俺に集まり、俺は慌てて口を押さえて黙り込んだ。 そんな俺を見て、賢人は「ふぅん」と意味ありげな笑みを浮かべると、俺の耳元に唇を寄せた。 「何だよ。気になるじゃん。俺とお前の仲だろ?」 ねちっこく尋ねられ、答えに窮していると突然俺の視界から賢人が消えた。 「……あのさぁ、昼間っから品のない会話止めてくんない? 椎名が困ってるだろ」 賢人を冷たい目で見下ろしながら、露木君が俺の腕を掴む。今の一瞬で何が起こったのか、よくわからなくて戸惑っていると、賢人が不満そうに露木君を見上げた。 「んだよ。ちょっとふざけてただけじゃん」 「キミはよくても、椎名が嫌がってるって言ってんの。デリカシー無さすぎじゃない?」 「な……ッ」 露木君がバッサリ切り捨てるような物言いをした瞬間、その場の空気が凍り付くのがわかった。 あぁ、居た堪れない。なんか、変な具合に目立っちゃってる。こんな空気にするつもりなんて全然なかったのに。 「……椎名。行こ」 「えっ、ちょ、露木君!?」 重苦しい空気の中、俺の腕を掴んだまま、ずんずんと露木君が歩き出す。 何処か苛ついたような足取りで教室を出ると、そのまま廊下を突き進んでいく。 「露木君! ちょっと、待ってよ! ……ぅ、わっ」 校舎のはずれにある空き教室の側まで来ると、漸く立ち止まってくれたけど、それでも掴んだ俺の腕は離してくれなくて、そのまま壁に背中を押し付けられてしまった。

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