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通じ合う思い ④
「っ、やばい。どうしよう……っ、めちゃくちゃうれしい……」
そんな俺の葛藤なんて露知らず、露木君は嬉しそうにふにゃりと蕩けた表情を浮かべた。マスク越しにでもわかる。今まで見た中で一番甘くて、幸せなそうな笑顔。
「そんなに? 今まで散々俺のこと好き好き言ってたくせに?」
「だって、椎名は優しいから僕の我儘を聞いてくれてるだけで、ホントは好きでいてくれる訳ないって思ってたし……」
「俺は別に優しくなんか」
「優しいよ。 あまり話した事なかった僕を受け入れて、家に置いてくれてるじゃないか。 そういうのって中々出来る事じゃないと思うよ」
露木君が俺の体をぎゅうと強く抱き締める。少し痛いけど、その痛みさえも今はなんだか愛おしい。
「ねぇ、椎名。キスしてもいい? キス、したい」
甘えるように強請られ、熱のこもった瞳が眼鏡の奥で揺れている。視界いっぱいに広がるその顔は何処までも甘く優しい。
「……うん」
俺が小さく頷くと、露木君は嬉しそうに微笑んでから、マスクを外してゆっくりと唇を重ねて来た。
最初は触れるだけのキス。だけど、すぐにそれだけじゃ足りなくなって、どちらからともなく舌を絡め合う。
「ん……、ふ……」
くちゅくちゅと唾液が絡まる音が耳に響いて恥ずかしい。だけど、それ以上に気持ち良くて、俺は夢中になって露木君の舌に吸い付いた。
「……っは」
露木君はキスが上手いんだと思う、頬の内側や上顎を舌で擦られるとゾクゾクして腰が砕けそうになる。
息が上がって苦しい。だけど、もっとしたい。ずっとこうしてたい。
うっすらと目を開けると、熱っぽく潤んだ露木君の瞳が見える。いとおし気に苦笑され、ドキリとした。
「困ったな。こんなんじゃ、全然足りない。椎名が欲しくて堪らないよ」
「ほ、欲しいって……っ」
唇が触れ合った状態で囁かれ、唐突に昨夜見たスマホの内容が脳裏に蘇った。色々衝撃的すぎて直視出来なかったし、数秒しか見てないけど、でも……っ。
「だめ?」
「だ……だめじゃ……ない、けど……でも、こんな所じゃ……」
いやいやいや、そうじゃないだろ俺! 問題はそこじゃない!
「勿論、こんな所じゃしないよ。家に戻ってから、ね?」
じゃれるように額を重ねて、悪戯っ子みたいな表情で微笑む露木君の顔を直視出来ずに視線をウロウロと彷徨わせる。
だって、今日、家に戻ったら、俺……露木君と……!?
どうしよう、想像したら心臓がバクバクしてきた。口から飛び出て来そうな勢いだ。
「ふふ、可愛い」
「ッ」
露木君は上機嫌で笑うと、俺の頭を優しく撫でてから「じゃあ、また後でね」と教室に戻って行ってしまった。
一人残された俺はというと、暫くその場から動く事も出来ず、ただその場に蹲るしかなかった。
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