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誘ってるの?
遠くでシャワーの音が響いているのをぼんやり聞きながら、俺は寝室のベッドの上で何度も寝返りを打ってはソワソワと落ち着きなく視線を彷徨わせた。
先に風呂に入った後、部屋で待ってて、なんて言われて平常心でジッとしていられるわけがない。
だって、今夜は露木君と一緒に、寝るんだよな? それって……その……やっぱり、そういう事をするってコトだよな?
さっき先にお風呂に入った時、スマホでもう一度検索してみたけど、イケナイものを見てる気分になって直視する事が出来ずに結局慌てて閉じてしまった。
あんなの……本当なのかな……? 情報量が多すぎて、なんだか現実感が無いけど、でも、露木君、本当に俺としたいのかな?
「ど、どうしよう……口から心臓が飛び出してきそう」
どうにかして心を落ち着けようと、クマのぬいぐるみに顔を埋めて深呼吸を繰り返す。
電気は消した方がいいのかな? とか、ローションなんて持ってないけどどうするんだろう。とか色々、付焼刃的に得た乏しい知識で考えては打ち消しを繰り返していると、カチャリと扉が開く音がして、思わずビクリと体が跳ねた。
心臓の音がやけにうるさくて、自分のものじゃないみたいだ。
咄嗟にクマのローズを抱いたままギュッと目を瞑り、ゆっくりと近づいて来る露木君の足音に耳をそばだてていると、ギシッとスプリングが軋む音がして、ベッドの片側が深く沈んだ。
「ふふっ」
え? いま、俺笑われた? なんで?
うっすら目を開けようとした瞬間、俺の腕の中からローズが消える。アッと思って顔を上げたそのタイミングで、チョンと唇に硬くて冷たい感触がした。
「!?」
驚いて固まったままの俺の目前には、クマのローズ。
「今のは、クマちゃんのキス。そして、次は……僕から」
ふっと影が差し、クマと入れ替わるようにして触れるだけのキスが唇に落ちる。
「ねぇ、どっちがいい?」
「……わかってる、くせに……」
露木君の意地悪。そんな聞き方、ズルいと思う。
返事の代わりに露木君の背に腕を回して、ぎゅっと抱き着くと満足そうに笑う気配がした。
「ふふ、可愛い」
俺の両側に手を突いた露木君の愛用する香りが降り注ぐように落ちて来て、くらくらする。
顔と顔が接近し、目が合って、どちらかともなく引き合うみたいに唇が触れ合う。啄むみたいな軽いキスは俺の緊張を和らげようとしてくれているのだろうか?
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