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初めての朝は ④
静かな教室内に、露木君の流暢な英語が響き渡る。マスクの下にある形のいい唇を想像しながら、俺はぼんやりとその姿を眺めていた。
甘くて低い声が耳に心地いい。
――かっこいいなぁ。普段から前髪上げて眼鏡も外したらいいのに。あぁ、でも。そんな事したら他の奴らが露木君の魅力に気付いちゃうかも。
それは嫌だ。露木君は俺だけの露木君でいて欲しい。
頬杖をつきながらうっとりと見とれていると、不意に露木君が此方を向いた。
そして、席に座ってから俺に向かってパチンとウインクを飛ばしてくる。
「っ!」
思わず息を飲み、慌てて視線を逸らした。うっかり見てたの気付かれてた!? うわ、恥ず。
教科書を盾にして隠れるように俯く。だけど、赤くなった耳までは隠せそうにはない。
途端にドキドキと早鐘を打ち出した心臓の音がすぐ隣に居る露木君に聞こえてしまいそうだ。
なんとか気持ちを落ち着けたくて、深呼吸を繰り返しながら窓の外に視線を移す。 外では体育の授業の真っ最中らしく、校庭でサッカーをしているのが見える。
その中に、気怠そうに端の方で休んでいる紗季の姿を見付け、思わず失笑が洩れた。 ああやってサボってるのって上から見ると目立つんだよなぁ。
前はあんなに好きだと思ってたのに、今はもう、紗季の事はなんとも思わない。
失恋の痛みから解放されるのはもう少し時間が掛かるんじゃないかって思ってたけど、そうでもなくて。
寧ろ、今は露木君との新しい関係に浮かれてさえいる。
紗季が俺の事を好きだと言ってくれた事は素直に嬉しかったし、裏切られて胸が傷んだのも本当。だけど……。
「椎名」
「え、あ……なに?」
不意に名を呼ばれ、慌てて視線を戻せば、露木君は少し硬い声で「もう授業終わるよ」と言った。気付けばいつの間にやら授業は終了してしまったようだ。
「ご、ごめん、ありがとう」
「……別にいいけど」
露木君は少し面白くなさそうにそう言ってから「ねぇ」と俺の顔を覗き込んできた。
「今、誰のこと見てたの?」
「へっ? 別に誰も……。隣のクラスがサッカーやってたから、暑そうだなと思って」
「ふーん、そう」
そっけなくそう言って、自分の席に戻っていく露木君のに若干の冷たさと不機嫌さが滲んでいるような気がしたのは気のせいだろうか?
なんか……ちょっと機嫌悪い?
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