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初めての朝は ⑤
相変わらず露木君はよくわからない。ついさっきまで機嫌よさげだったのに、この落差は一体何なんだ。
そう言えば、賢人と話をしてる時も不機嫌な時があるし、ひょっとして妬いてたりする?
「まさか、な……」
でも、もしそう、だとしたら。――俺は、すごく幸せ者だ。
「おーい椎名。次、移動教室だから早く行こうぜ。って……なにニヤニヤしてるんだよオマエ」
「はぇっ!?」
突然横から賢人に声を掛けられて、ハッと我に返る。気付けば教室の中に残っているのは俺を含めた数人だけだった。
露木君もいつの間にか居なくなってる。一声掛けてくれてもいいのに。
まぁ、学校では出来るだけ普段どうりで過ごそうって約束だから、仕方ないと言えば仕方ない。
いままでほとんど学校では接点が無い俺達が急に親しくしてたら、絶対に変な目で見られるだろうし。
でも、少し寂しい気もする。
「って、ニヤニヤなんてしてないし」
「本当かぁ? なんかすげぇ締まりのない顔になってたけど」
「いやいや、ないから。全然」
俺、そんなにだらしない顔をしてたんだろうか? ちょっと浮かれすぎかな。
まぁ、確かにちょっと……いや、かなりニヤけていたかもしれない。今度から気を付けよう。
「そういやさ、椎名って露木となんかあった?」
理科の実験室へと向かう途中、いきなりそんな事を言われて、持っていた教科書を落としそうになり、慌てて抱え直した。
「……な、なんで?」
「いや、別に。ただ、最近なんかお前ら二人の雰囲気変わったなーって思って」
流石は中学からの友達。鋭い。
「そ、そう?」
「前にも言ったと思うけど、露木ってお前に気があると思うんだよな。でも、お前もよく目で露木の事追ってんなぁって気付いてさ。コレはなんかあるんじゃないかって」
「……ぅ」
賢人って探偵か何かなんだろうが?そんな事まで分かっちゃうものなの? 俺は内心、若干焦りを覚えながらも顔には出さないよう平静を装った。
「よ、よく見てんな。お前」
「まぁ、好きな奴の事は気になるし、目で追っちゃうからなー。わかるわかる」
さらりと軽いノリでそんな事を言うもんだから、俺はピシっと固まった。
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