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隠し切れない気持ち ⑧
なんだか今、すっごい目立ってる気がする。サワサワと聞こえて来る周りの女性客たちのおしゃべりが、全部俺達の事を話してるんじゃないかって思うくらい。
「うん、凄く美味しい」
「ご、ごごごめん! 俺っ、変な事しちゃった」
「どうして謝るの? 僕、椎名に食べさせてもらえて凄く嬉しいよ」
「……」
露木君って、露木君って……っ!さらりと自分がとんでもない事を言ってるって自覚は無いんだろうか!?
「本当のことを言うと、僕が椎名にしてあげようと思ってたんだけど、先を越されちゃったなぁ」
「もうっ、露木君の冗談は心臓に悪いよっ!」
「冗談じゃないのに」
クスクスと笑いながら、自分のイチゴパフェの先端をスプーンに掬って、俺の口元に持ってくる。
「はい、椎名も食べて」
「え、でも……」
「僕だけやってもらうなんて、不公平でしょ? ほら、口開けて?」
「ぅ……っ」
不公平の使い方、間違ってない? ジッと見つめたスプーンから、チラリと視線を上げて露木君を見た。
「なに? どうかした?」
なんてシレっと聞いてくる顔がちょっと憎らしい。
「……なんでもない」
これ以上言ったところで、きっと彼には勝てないだろう。こうなったら――。
思い切って口を開けて、素早く差し出されたスプーンに食いついた。
「どう?」
「……美味しい」
「それは良かった」
露木君は満足そうに微笑むと、そのスプーンで自分のパフェを掬い、自分の口へと運ぶ。その仕草が妙に色っぽくて、思わずドキッとしてしまった。
ふと、露木君と目が合う。
「あ、椎名……クリームが付いてる」
「え、わ……っ」
ゆっくりと近づいて来て、露木君の指の腹が俺の唇に触れる。そして、その指は優しく唇をなぞって離れて行った。
「……っ」
本当に、心臓に悪い。顔がじわじわと熱くなっていくのが嫌でもわかる。
「さ、もう一口。あーん」
「い……、いいよ。自分で食べられるからっ!」
これ以上は心臓が持たない。大慌てで全力拒否すると、露木君はちょっと不満そうに唇を尖らせて見せた。
そのタイミングで露木君のスマホから軽快な音楽が流れて、彼が小さく舌打ちしたあと、ポケットからスマホを取り出す。
そして画面を見て一瞬驚いた顔をした後、少し困ったような表情になった。
「ごめん、ちょっとだけ席を外していい?」
「あぁ、うん。俺の事は気にしないでいいよ」
甘い雰囲気が払われてちょっとホッとしたというかがっかりしたというか……。
それにしても……。学校でも家でもあまり見たことが無い表情だったけど、一体誰からだろう? 席を立って人気のない所へと向かう後姿に妙な胸騒ぎを感じてしまう。
けど、ここで露木君に電話の内容を聞くような事はしちゃダメだろうし、聞かれたくない話かもしれないし。
待っててと言われたんだから、気にせずパンケーキを食べよう!
大丈夫。 きっと、話したい事があれば向こうから話してくれるはずだ。そう自分に言い聞かせて目の前のパンケーキを頬張っていると、
「あれ!? 環先輩?」
突然、聞き覚えある声が響いて、うぐっと喉に詰まりそうになり慌てて水を飲んだ。
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