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隠し切れない気持ち ⑨

聞き覚えある声に呼ばれた気がして、視線を上げる。 「え、あれ? 一織?」 「やっぱ環先輩だ! うわぁ、久しぶりです!」 そこに居たのは、同じ中学で一つ下の後輩だった中西一織。少し大人っぽくなったように見えるけど、俺だと確信した途端、大型犬みたいに飛びついてくるあたり、中身は全然変わっていないみたいでほっとする。 「ホント久しぶりだね一織。まさかこんな所で会うなんて思わなくてビックリした。おじさん達は元気?」 「元気も何も、元気過ぎて超ウザいんだ。あれしろ、これしろーってさぁ……」 どうやら、一織は反抗期真っ只中らしい。何処か面倒くさそうに話すのが面白くて、ついクスリとしてしまった。  一年で俺よりずっと大きくなったのに、|中学《あの頃》のまま。 時が止まってるんじゃ無いかと思うくらい、変わってない。 何処かホッとするような空気感。 すごく懐かしい。 「それにしても、意外だったな。環先輩はこういうとこ絶対に来ないと思ってたのに。もしかして、彼女とデート?」 「えっ、あ、あー……いや……」 クリッとした目で見つめながらこてんと首を傾げられ言葉に詰まる。俺と露木君の関係は、けして公には出来ないし、理解もされ辛い。その事がわかっているから、返答に困る。 「椎名?」 と、そこへ露木君が戻って来て、俺の名前を呼んで首を傾げた。 「露木君! 電話もういいのか?」 慌てて露木君の方に駆け寄ると、露木君はチラリと一織を見てから俺を見る。 「うん、ごめんね。遅くなっちゃって。……その子は?」 「あー、紹介するよ。この子は中学の後輩で、幼馴染の中西一織。お互いの父親が昔から協力関係にあって、その縁で小さい頃から一緒だったんだよ。今日は偶々会って……ぅわっ」 「へぇ? そうなんだ。 僕は露木。椎名のクラスメイトだ。よろしく」 全部を言い終える前に肩を引き寄せられて、一気に露木君との距離が縮まった。露木君はまるで俺を庇うかのように、一織との間に割って入ると、にっこりと満面の笑みで自己紹介をする。 「え? あぁ……、ども。へぇ、クラスメイト……」 「何か問題でも?」 「いや、別に。何でも。あ、オレ、妹待たせてたんだった。そろそろ行かなきゃ。また連絡するね、環先輩!」 「え? あ、うん。また」 少しピリッとしかけた空気を避けるように、一織がさっさと去っていく。その後ろ姿を見送った後、俺は緩く息を吐いた。

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