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隠し切れない気持ち 10
「露木君、何か怒ってたでしょ」
「ん? 別に怒ってないよ」
そう言って露木君はにこりと笑う。けど……。
いつも見ている、見てるこっちまで恥ずかしくなっちゃうような甘い笑顔じゃない。
「それより、そろそろ戻ろうか」
スッと流れるような手つきで伝票を手に取り、露木君はさっさとレジの方へと歩いて行くから、俺も慌てて後を追った。
もしかしなくても今、サラっと話題を変えた……よな? ……なんだろう? すっごい違和感。
「実はね、撮影の件で椎名に手伝って欲しい事があるんだ」
俺が口出しする暇もなくスマートに会計を済ませると、露木君がそう言った。
撮影? 撮影って……Naoの配信の?
「俺が!?」
一瞬、聞き間違いじゃなかろうか? なんて、思ったけど。
「そう。椎名にしか頼めないんだ。ダメかな?」
なんて、ちょっと困ったように眉を下げて言われたら、断れるわけがない。
寧ろ、憧れのNaoの配信の手伝いが出来るなんて、一ファンからこれ以上ない位のご褒美以外の何物でもない。
「ダメじゃない! 俺に出来ることがあれば何でもするよ!」
「なんでも? ふふ、それは嬉しいな」
ほんの一瞬、露木君の笑顔に黒いものが見えた気がしたけど、きっと気の所為だろう。うん。多分そうだ。
「で? 俺は何をすればいいんだ?」
露木君の後を付いて歩きながら、そう聞くと、露木君は「そうだねぇ」と顎に手を当てる。
「それは、家に戻ってからのお楽しみだよ」
「えー、なんだろ。気になる」
「まぁまぁ、そう焦らないの」
「でもさ……」
「大丈夫。椎名にしか出来ない事だから」
「俺にしか?」
「そう。だから、楽しみにしててよ」
露木君はそう言って、俺の肩をポンと叩く。
「うん、わかった」
露木君がそこまで言うんだから、きっと俺じゃなきゃダメな事なんだろうし、それなら俺は全力で協力するっきゃない!
この時の俺は本気でそう思っていて、露木君が言う《《手伝い》》がなんなのか事前に確認しなかった事を後に後悔する事になるだなんて、微塵も思っていなかった。
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