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友情と疑惑 ④
何気なく目で追っていると、他の店から綺麗な女の人が出て来て、当然のように露木君の腕にするりと腕を絡ませるのが見えた。
「……っ」
思わず息を飲む。俺の位置からじゃあまり良く見えなくて、楽しそうに顔を寄せ合ってるのはわかるけど、それ以上の事はわからない。
「? おい、椎名どうした? 急に黙り込んで」
賢人の声でハッと我に返る。顔を上げると、賢人が怪訝な顔をして俺の方を見ていた。
「……あ、ごめん。なんでも……無い」
チラリともう一度先ほどの方へ視線を向けたが、そこにはもう露木君の姿は無く、俺はそろりと息を吐いた。
さっきのは一体。他人の空似だろうか。 それとも本当に――?
いや、そうとは限らないし、単なる見間違いかも知れない。
でも、俺が露木君を見間違うはずない。
「椎名? 顔色悪いぞ? 本当に大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。少し考え事してただけだから」
無理矢理作った笑顔で答えるけど、賢人の表情は変わらない。それどころか益々訝しげな表情になった。
「いや、全然大丈夫そうに見えないから。んー、わかりやすく言えば恋人の浮気現場目撃しちゃった。みたいな?」
「……っ」
「え?……マジ?」
賢人の言葉に、思わず息を飲んだ。その様子を見て肯定と取ったのか、賢人の顔が引き攣る。
「え、え? マジで? 露木のヤツ浮気してんの?」
「っ、ち、違う! 今のは、その、見間違いだから!きっとそう、だからっ! 露木君に限ってそんなはず……」
「見間違いって……お前」
賢人が何か言いたげな目で俺を見る。言いたい事は痛いほどわかる。
信じたくない、ただの見間違いであって欲しい、そう願う反面で、俺の中にはさっき見た光景が鮮明に焼き付いて離れない。
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