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友情と疑惑 5
「すぐそこに居たのか? だったら、電話してみろよ。疚しい事が無けりゃすぐに電話に出るだろ」
「そ、そう、だね」
賢人に促されて、スマホをポケットから取り出す。震える指で画面をタップして露木君の連絡先を呼び出そうとして、手が止まった。
もし、本当に浮気だったら? 俺は一体なんて言ったらいいんだろう?
『さっきの女の人は誰?』
そう聞いて、もし肯定されてしまったら? 否定したとしてもそれが嘘だって事だってあり得る。
一瞬だけ見えたのは、凄く綺麗な人だった。大学生か、OLさんかはわからないけど、女性的な魅力を惜しみなく振りまいていそうな雰囲気。
露木君はあんな風な女の人が好きなのだろうか。
でも、俺は露木君じゃないと嫌だし、露木君も俺を選んでくれた。
……いや、でも。そもそも浮気が本当かどうかもわからないのに、一体なにを疑ってるんだ。
だって、露木君だぞ? あの露木君が俺を裏切るような真似をするはずないじゃないか。
「椎名?」
「あぁ、うん。ごめん、電話するのは止めとく。まだ決まったわけじゃないし……露木君の事信じてるから」
自分に言い聞かせるようにそう呟いて、俺は賢人にぎこちなく笑顔を向けた。
「そっか。まぁ、お前がそう決めたんなら俺があれこれ言うこっちゃないけどさ……。もし、辛くなったりしたらいつでも言えよ? そん時は俺がアイツぶん殴ってやるから」
「うん、ありがとう」
賢人の優しさが身に染みる。
本当にいい友達を持ったな、俺。
「あんま一人で抱え込みすぎんなよ? お前すぐ我慢するんだから」
「う……、はい」
痛いところを突かれて、思わず言葉に詰まった。
「ま、お前らなら大丈夫だって俺は思うけど。もしもの時は遠慮なく頼れよ」
「うん」
「よし! ……っと、なんか急に小腹空いたな。俺追加でポテト頼もっかな。椎名はどうする?」
「えっ!? まだ食べんの!?」
この話はおしまいとばかりに話題を変えた賢人が、いつもの調子で言う。
「お前は食わなさ過ぎな。だからチビのまんまなんじゃねぇの?」
「ちょっ、チビは余計じゃん!」
「ハハッ。健全な男子高校生ならもっと食うだろ」
「食わないよ!胃袋どうなってんだよっ!」
俺の抗議を賢人は笑って受け流し、追加注文をしに立ち上がる。
やっぱ、賢人はいいヤツだ。変に慰めたり、励ましたりしないところが、賢人の良いところだと思う。
「椎名ー、ポテトSサイズにするか?」
「……食べないって言ってんのに。まぁいいや、じゃぁそれで」
「了解」
賢人が注文をしに行ってる間、俺はぼんやりと窓の外へ視線を投げた。
露木君は、今何してるんだろうか。
さっきの女の人と、まだ一緒に居るんだろうか? それとももう帰ったのか
な? ……って、また考えちゃってるし。
こんなんじゃダメだ。もっとしっかりしないと。
今日、露木君が帰ってきたら直接聞いてみよう。 それでもし、嘘を吐いていたり、誤魔化したりしたら……。
その時はまた、考えればいい。
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