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友情と疑惑 ⑥
あれから、悶々としたまま、あっという間に夜になってしまった。
夜遅くなると言いながら露木君はいつも20時ごろに戻って来る。もし、あの女の人と一緒に居て戻って来なかったらどうしよう。
一人で居るとどうしても不安になってしまう。
「あ……」
何気なく、リビングに目をやれば、昨夜まで元気に真っすぐ立っていたはずのバラがしおしおと首をもたげていた。
「ごめん、水あげるの忘れてた」
慌てて水差しを取って来て、カラカラに乾いた鉢に水をたっぷり注ぐ。
萌え芽程度だった蕾はどんどん膨らんで、今にも開花しそうなくらい大きくなっている。
「……露木君」
本当に、浮気なんだろうか? 俺に飽きたとか、他に好きな人が出来たとかならまだ良い。
でももし、そうじゃなかったら……? 俺でなくても良いから、寂しさを紛らわせる為なら誰とでも寝るような人だったとしたら? だって、露木君は女性向けのイケカテで活躍してるような人だ。自分の市場価値は嫌と言うほど理解している筈だし、彼と寝たいって女の子は腐るほどいるのを俺は知ってる。
違う。そんな人じゃないってわかってるのに、一度頭を過った嫌な想像は中々消えてくれなくて、不安ばかりが大きくなっていく。
「……露木君、……早く帰って来てよ」
会いたいような、会いたく無いような。複雑な気持ちを抱えたまま、バラの蕾をじっと眺める。
露木君はどうして、あの配信をやっているんだろう? やっぱり、モテたいから? 単純に考えたらそうなんだろうけど、でも、それだけじゃない気がする。
でも、やっぱり今は――。
「早く、会いたいな」
ポツリと漏れたのは、切実な本音。アレはやっぱり俺の見間違いで、浮気でも何でもなくて、露木君は僕を裏切ったりして無いって、早く安心したい。
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