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友情と疑惑 ⑦
一人でいると、どうしても悪い方へ悪い方へと考えてしまうから、スマホを弄って心を紛らわそうと、起動させた所で着信を知らせる音が鳴り響いた。
慌てて画面を確認すると、画面に表示されているのは『一織』の文字。
「って、なんだ、一織かぁ」
表示された名前を見て、思わず拍子抜けしたような声が出た。
こんな状況でも無意識のうちに露木くんかと期待してしまう自分に苦笑しつつ、スピーカーをオンにし通話ボタンを押す。
「一織。なに?こんな時間にどうかした?」
「いやぁ、特に用ってほどじゃ無いんだけど、この間少ししか話せなかったから、話したいなぁと思って電話してみただけ」
電話口の声は、少し照れた様子で、でもどこか嬉しそうに弾んでいる。
そう言えば、一織とゆっくり話すのは久しぶりだ。 中学校卒業以来だろうか?
この間は露木君がいたから、挨拶くらいしか出来なかったけど、積もる話は色々ある。
「先輩、声に元気がないけどなんかあった?」
やっぱり、一織は鋭い。そういえば昔から洞察力が人一倍優れていて、周囲の状況を良く見ていたっけ。
「別に、何も、無いよ?」
一織に心配を掛けまいと、いつも通りの調子で答えようとしたけどぎこちない喋り方になってしまった。
案の定、電話口の向こう側で、一織が眉をひそめたのが気配でわかる。
「先輩さぁ、隠し事下手すぎ。そんなテンプレみたいな返答して来たら、誰でもなんかあったんだって気付くよ」
「うっ、そんなに?」
少し呆れ気味の一織の声が耳に痛い。そんなにわかりやすかったんだろうか?
「何か辛い事あったんでしょ? 話くらいなら聞くよ?」
一織の言葉に、少し考える。確かに、誰かに話した方が気持ちが軽くなる事もあるけど、これは俺と露木君の問題だ。
流石に一織に相談するには迷惑なんじゃ。
「今、俺に相談するのは迷惑に思わないかな?とか思ったでしょ」
「っ、な……」
「わかるよ。ずっと小さい頃から一緒だったんだから。全然迷惑とか無いし。それに、たまには頼ってよ」
一織の言葉が、じんわりと胸に沁みた。
そっか、俺、露木君の事信じてるはずなのに、心の何処かでは疑ってたんだな。
露木君は浮気とか絶対する人じゃないって、頭ではわかってるはずなのに……。
それを見破ったのが幼馴染の一織っていうのが少し悔しいけど。
でも今は、一織に甘えさせて貰おうかな。
俺は、今日あった事をかいつまんで話すことにした。
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