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友情と疑惑 ⑧

一通り話し終えると、一織が深い溜息を吐いた。 「えっとさ、一つ確認があるんだけど、いい?」 「なに?」 一織の言葉に、首を傾げる。 流石に露木君の事をそのまま話すわけにもいかなくてふんわりと表現したけど、何か気になる事があったんだろうか? 「その、環先輩が好きな人ってさ、この間一緒に居たあの人だよね?」 「えっ、い、いやっ、ちが……っ」 「先輩」 焦って否定した俺を、一織は強く静かに呼び止める。その真剣な声音に、思わず息を呑んだ。 一体どうしてわかったんだろう? いや、もしかしたらカマかけられただけか? だとしたら、認めるのは――。 「この間会った時、変だとは思ったんだよ。デートの下見に来るにしたって、普通男同士じゃ行かないし。それに、あの男の態度は、普通の友達がする態度じゃなかったしね。でも、今日の事でようやく納得がいったよ」 「い、一織……えっと、その……っ」 「あーぁ。環先輩、男なんて絶対興味ないと思ってたのに。……こんな事なら、諦めるんじゃなかったかな」 深い溜息と共に吐き出された言葉。それは、俺が今まで聞いた事がないくらい何処か寂し気な、自嘲的とも取れる声音だった。 「諦めるって、何を?」 「……なんでもない。それよりさ、環先輩があの男と付き合ってる事を前提として話を進めるけど、今まで怪しい気配とか無かったわけ? 似たような 事とか」 一織が切り替えるように言って、俺は思わず考え込んでしまう。定期的に何処かへ出かける事はあるけど、怪しいなんて一度も思った事なかった。スマホを触る時間が増えたとか、肌身離さずスマホを風呂場に持ち込むとかそう言う浮気の典型的な行動は露木君には見られなかったし。 それどころか、常に俺を優先してくれるし、俺が嫌だって言った事は絶対にしない。いつだって俺に優しくて、甘くて。 疑う余地なんて無い筈なのに、不安になるのは自分に自信が持てないから。 俺は、露木君に釣り合うような人間なんだろうか。

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