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トラブルメイカー
翌日、教室に入るなり、賢人が俺の顔を見て微妙な表情をする。
「……なんだよ」
「いや、やけに元気そうだなと思って」
「そ……、そんなことないけど?」
思わず声が上擦ってしまったのは許してほしい。だってどうしても昨夜のアレコレがフラッシュバックして蘇って来るから。
じわじわと顔が火照って仕方が無いのは室温の所為だけじゃない筈だ。
「たく、あれから連絡の一つも無いから心配してたのにさ、何だかんだで上手くいってたんだな。今日、お前が暗雲背負って学校に来たらどうやって慰めようか悩んでた俺が馬鹿みてぇ」
そう言えば、賢人には昨日、散々情けない姿を見せてしまっていた。
「ご、ごめ……っ、昨夜は色々あったから……その」
「いいよ、いいよ。お前の顔見りゃわかるって。理由はどうあれ、誤解は解けたんだろ?」
「うん、それはまぁ……」
「鏡見て来いよ。いつもに増して顔がゆるみ切ってるぞ」
「え? そんなの……」
ない、と言い返そうとして、俺は言葉を飲み込んだ。
俺、そんなにだらしのない顔をしてたんだろうか。
「なんだかんだで、ラブラブみたいで羨ましいねぇ」
ニヤニヤしながらわき腹を小突かれ、腰から来る鈍い痛みに思わず呻きそうになったのを、俺は何とか堪えた。
それを見て、何かを察したのか賢人の顔が益々ニヤけた笑みに変わっていく。
「あ、もしかして痛い感じ? 腰」
「べ、別にそんなんじゃなくて……っ」
「……やらしーなぁ。俺が心配してたのに昨夜はお楽しみだったんだな」
賢人に肩を組まれて顔を覗きこまれ、もう何も言えなくなった。
「藤丸。あまり椎名を苛めないでくれない?」
居た堪れなくなって、小さくなった俺に、賢人の背後から呆れたような露木君の声がかかる。
「噂をすれば。苛めてないっつーの。昨夜散々泣かせてたのはお前の方じゃねぇの?」
「な……っ」
「そりゃ、まぁ……ね?」
「露木君!」
恥かしすぎて思わず俺が叫ぶと、二人は顔を見合わせて笑った。
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