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トラブルメイカー ⑧

なんで、なんで、こんなことになってるんだ? どうして?  さぁ、っと全身の血の気が引いていくのがわかった。 「露木君!」 なんで露木君が?? 頭が混乱して、上手く言葉が出てこない。露木君は俺の身体を守るみたいに抱きしめていて、俺と一緒にコートの中に倒れ込んでいる。 辺りは騒然とし、篠田を筆頭とした他のチームメイト達は皆、事態の重さをようやく理解したのか顔を真っ青にして立ちすくんでいる。 「だ、大丈夫?」 「ハハッ、平気だよ。ちょっと手首をやっただけだし。それより……僕の眼鏡、知らない?」 さっきの衝撃で吹っ飛んでしまったらしい眼鏡を手探りで探している露木君の右手首が赤く腫れあがっている。その指先が眼鏡に当たり、ようやく探し当てた露木君がそれを耳に掛けようとして、一瞬顔を顰めた。 露木君の眼鏡は右側のレンズにひびが入り、片方の耳に掛ける部分が、少し歪んでいる。 鼻血は出てないけど、その痛々しい姿に胸が潰れそうだ。 「あーぁ。この眼鏡高かったのに……」 露木君は、赤くなった自分の手首を見ながら溜息を一つ零し、仕方がないなと苦笑を零した。 今の一撃で露木君は手首を捻挫。それに加えて眼鏡が壊れてしまった。 それだけでも、さっきのボールの勢いがどれだけすごかったのかがわかる。こんなの絶対に手が滑った、なんてレベルの事故じゃない。 故意に引き起こされた事件だ。 「ッ、全然大丈夫じゃないじゃんそれ! 早く保健室に行かなきゃ」 俺は慌てて起き上がろうとして、露木君に制される。 「環は? 怪我してない?」 コンタクトもしていない状態ではよく見えないのか、伸びて来た両手にいきなり頬を挟まれた。 「俺は、全然……露木君が守ってくれたから」 「そっか、良かった」 そう言って、安心した様に笑った露木君の顔に不謹慎にもドキリとしてしまう。今はそれどころじゃないのは頭ではわかっているのに。

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