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トラブルメイカー ⑨

鼻と鼻がくっつきそうな程の至近距離。この勢いでキスでもされちゃいそうな雰囲気だ。 流石にこんな場所で露木君がそんな事をするわけはないと思いつつも、妙に意識してしまう。 「あー、お前ら。イチャ付くのは保健室でしろよな。サトちゃんも入る隙が無くて困ってんじゃん」 「っ、い、イチャ付いてなんかっ」 突然聞こえた賢人の呆れ声に、俺はハッと我に返った。改めて周りを見てみれば、ざわつくクラスメイト達と困り顔でこちらを覗き込んでいる佐藤先生の姿が見える。 そうだ、まだ授業中だったんだと今更ながらに思い出し。俺は慌てて露木君の手から逃れた。 「たく、露木も無茶すんなっての。いくら我慢できなかったつってもいきなり飛び込んでいくなよ。流石にビビるだろうが」 「ごめん藤丸。だって、あまりにも理不尽すぎて」 「ま、その気持ちはわからんでもないけどな。……環。此処は俺が処理しとくから、お前はソイツ保健室に連れてってやれよ」 賢人はそう言いながら、俺の背中軽く叩いて、無理やり立ち上がらせる。 「サトちゃん。露木が怪我したんで、椎名がちょっと保健室に連れて行きますって言ってるけどいいですよね?」 「あ、あぁ……」 佐藤先生は、俺の背中越しで賢人が先生にそう確認しているのを聞きながら、露木君の傍にしゃがみ込んだ。 そして、露木君の手首に軽く触れ、少し眉を顰める。 きっと、かなり痛むのだろう。 俺はそんな露木君を見ていられなくて、思わず目を逸らした。 ……俺のせいだ。 俺がもっとしっかりしていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに。露木君の怪我が俺のせいだと思うと、罪悪感で胸が潰れそうだ。 もっと、賢人たちの話に耳を傾けておくべきだったんだ。そうしたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに。 「……大丈夫。環は何も悪くない。だから、自分を責めたらダメだ。それに、言っただろ? 僕はキミを何があっても守るって。悪いのは、姑息な手を使ったあいつらなんだから」 「そうそう。つか、いいから早く保健室に行けっての。ちゃんと証拠はバッチリあるから、後処理は俺に任せとけって」 露木君は、俺を安心させるようにそう言って微笑んだ。賢人もわざとおどけた様に俺に向かってヒラヒラと手を振る。 「じゃぁ、藤丸。後は頼んだよ」 「おう、あーでも。保健室でエロい事すんなよ?」 「んなっ!? す、するわけ無いだろっ! 馬鹿!!」 俺達にしか聞こえないような声でそっと耳打ちされて、ブワッと一気に体温が上がった。至近距離に居る露木君にも聞こえたらしい。どんな顔をしていたかはわからないけど、あたふたと慌ててるのが気配だけでわかる。 あぁ……顔が熱い。耳まで赤くなってしまっていないだろうか? こんなのただの冗談だっていうのはわかっているけど、まるで本当の事みたいに聞こえるから勘弁してほしい。 俺は誤魔化すようにコホンと咳払いをして、じゃあ行こうかと、露木君の手を引いた。

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