166 / 228
トラブルメーカー ⑪
「悪かったな椎名。早めに気付いてやれなくて。お前は怪我は無いのか?」
「俺は全然。ちょっと足を踏んづけられたり当たったりしただけだから。平気です」
「そう、か」
「チッ、それって本当に平気なの? ちょっとそこのボク。見せて」
不愉快そうに舌打ちした琴宮先生は、俺の前までつかつかと歩み寄ると強引に跪き、ジャージを捲って足の状態を確認した。
「なんだこれ? ちょっと腫れてるし変な痣が出来てるじゃないか。たく、揃いも揃って馬鹿ばっかり。痛いのを我慢するのは美談かもしれないけど、それで怪我が悪化したら元も子もないでしょ。キミ、本当に大丈夫なの?」
俺の足を擦ったり軽く叩いたりしながら、琴宮先生が心配そうな眼差しを俺に向ける。
「あ、はい。全然平気です」
「なら良いけど。俊樹、湿布と包帯出して」
「あいよ」
サトちゃん先生が棚から湿布と包帯を取り出して琴宮先生に渡すと、先生は手際よく俺の足に湿布を貼り包帯を巻き始めた。
「キミは軽い打撲で直ぐよくなると思う。けど、今日一日走ったりするのは禁止だから」
「あ、ハイ」
どうやら先生なりに、俺を心配してくれているらしい。さっきは睨まれて少し怖かったけど、本当はすごく優しい人なのかもしれない。
「コイツ、見てくれだけはいいんだよな、黙ってたらマジ天使みたいだろ? 口を開けば息を吸うように毒を吐くけど」
「俊樹。聞こえてるから」
俺の心を見透かしたように、サトちゃん先生が茶化す。そこにすかさず琴宮先生からの突っ込みが入る。
「ハハッ、バレたか。――ところで、露木は大丈夫なのか?」
「多分軽い捻挫。でも、利き手だから、病院受診を勧めてる所」
サトちゃん先生の問いに、琴宮先生が答える。その答えを聞いて、サトちゃん先生は小さく溜め息をついた。
「そっか。露木も災難だったな。でも、身を挺して椎名を庇うお前、最高にカッコ良かったよ。お前ただの根暗かと思ってたのに、いいとこあるなぁ」
サトちゃん先生は露木君の頭をクシャクシャと撫でると、そのままベッドの側に椅子を寄せて腰掛けた。
「俊樹、デリカシー無さ過ぎ。それ、褒めてないだろ」
「褒めてる、褒めてる。びっくりするくらいカッコよかったんだぞ。な、椎名」
「はい! 露木君はいつでもカッコイイです!」
サトちゃん先生の問い掛けに、俺は間髪入れずに答えた。だって、本当にそう思うんだから仕方ない。
「……っ、ぼ、僕は別に……っ。外野から見てて、見るに耐えなかったから、つい……」
ふいっと視線を逸らして、露木君がもごもごと口籠る。もしかしなくても、照れてる?
可愛い。なんて言ったらきっと露木君は怒るだろうから口には出さないけど、その仕草があまりにも可愛すぎて、俺は思わず心の中で悶絶する。
ともだちにシェアしよう!