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近付かないで 

丁度、病院へ辿り着いたそのタイミングで、露木君から診察が終わって戻るという連絡が入った。 「露木君!」 「た、椎名。来てくれてたんだ」 病院の前で待っていると、俺の声に反応した露木君が嬉しそうな顔をする。その表情を見ると、俺も凄く嬉しくなる。 だけど、そのすぐ右隣。露木君に腕を絡ませ、べったりとまるで恋人か何かのように寄り添い歩く見知らぬ女性の存在が俺の心を曇らせた。 誰だろう? 露木君の、彼女、とか……? いや、そんな人は居ないって昨日言われたばかりじゃん。 「病院の外じゃなくて、家で待っててくれてよかったのに」 「ごめん。どうしても気になったから。……その人は?」 「ん? あぁ、僕の母さんだよ。佐藤先生がわざわざ電話したらしくってさ、来なくてもいいのに来ちゃったんだ」 「もー、直くんってば酷くなぁい? 子供を心配しない親なんていないわよ」 なんだ、お母さんだったのか。でも、それにしても……。随分、派手な美女だな。 綺麗にネイルアートを施した指先。緩く巻かれたロングヘアと、胸元が大きく開いた半そでシャツにタイトなミニスカート。ぽってりとした唇にはよほど自信があるのか、ピンクのグロスが彩り、女子だけが持つ輝きのオーラを惜しみなく溢れさせている。 その外見はまさに、男が寄ってたかって我先にと争う女王蜂のようで。 何処からどう見ても完璧な「女」を具現化したようなその出で立ちは、とてもじゃないけど高校生の子供がいるようには見えない。 俺の父さんの、再婚相手と似たようなタイプで、正直俺は苦手。 しかも、全然病院に来るような格好じゃない。 まぁ、仕事先から駆けつけて来たのかもしれないから、そこは目を瞑ろう。 でも、その服で露木君と一緒に歩くのだけは止めて欲しい。 「直くん、この人が?」 「うん」 「初めまして。直人の母の花音です」 「あ、どうも……。俺は……」 「椎名君、でしょ? いつもお世話になってます」 俺の言葉を遮るようにそう言って、彼女はニッコリと微笑んだ。その笑顔は完璧だけど、どこか有無を言わせない迫力があって少し怖い。 「椎名君って、あの椎名コーポレーションのご子息なんでしょ? 直君から色々聞いてて、ずっとどんな子なのか気になってたのよ。でも、想像してたよりずっとずっと素敵ね」 花音さんはそう言って俺の両手を取り、ぎゅっと握りしめた。その笑顔は一見とても優し気で柔らかいのにどこか冷たくて。まるで品定めでもするかのように上から下まで俺を眺めて、花音さんは小さく溜め息を零した。 「……っ」 俺は彼女の目を見る事が出来ずに思わず俯いてしまう。 そんな俺の様子を見て露木君が慌てたように間に入って来た。そして、まるで俺を庇うようにして花音さんの前に立ち塞がった。

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